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Donavon Frankenreiter ・『ON MY MIND』
Donavon がうしろの方で歌っている。三宅はこわいテレビ番組を見た時必ず彼のCDを流す。彼の声はどうしたって眠ってしまうらしいのだ。
僕は彼の曲を聞いてもちっとも眠れない。どうしたってノスタルジーにひたって照れくさくなってしまうから。
僕と三宅は高校の頃からの付き合いだった。お互い友人からは「すこしへん」という称号を頂いていた。
僕が三宅を初めて意識したのは三宅がアロエ缶を食べながら歌をうたっていた時だ。それは本当にへたな歌で、僕はひどく戦慄したのを覚えている。
「おーんまいまいおーんまいまいあげー」三宅は一人声をはりあげていた。
「三宅さん」
それで僕は思わず声をかけてしまったのだ。当時は声をかけなければ呪われてしまいそうな気がしたのだ。
「どうしたの?悩み事でもあるの?」
僕はお昼のあんみつがぬるくなってしまわないか心配しながらも真剣に尋ねた。三宅は実はイタコなのではないかと少し疑っていた。そんな僕に、三宅はいつもの適当な物言いで答えたのだった。
「べつにないよ。心配してくれてありがとお」
意思の強そうなくりっとしてキッとした彼女の瞳をみて僕はなんだか申し訳なくなっていた。あんみつの心配をしていたんだほんとは、なんて言えないじゃないか。
「いやでも…そんなあぶらあげの歌なんか歌って…」
僕がそう言ったとたんに三宅はぶっふーとふきだした。そして怒った。僕の発言にではなく、彼女がふきだしたことに対して。
「アロエふきとばしちゃったじゃん!!もったいな!」
「ごめん」
「まったく…いつか恋人ができたら歌ってあげるといいよ」
三宅はそういうとゲラゲラ笑った。僕は彼女がたぶんイタコではなかったことを悟り少し安心したのだった。
…彼の曲を聞くと、そんな青臭くてこっ恥ずかしい記憶を思い出してしまうのだ。
ちなみに大学生になった僕はまだ一度も恋人になった三宅にその歌をうたったことはない。だってちょっと照れくさいじゃないか。
Girl, you're on my mind, on my mind again だなんて。