@music
奥田民生・『コーヒー』
僕は疲れて帰ってきた。
僕は三宅が好きだ。三宅はとても無頓着だから。いい意味で。
でも少し不公平な気がするのだ。例えば今日の様な日には。
僕はどうやら三宅と違いほとんど顔にでないタイプらしく、ゼミのなんやかんやで僕がやる必要性も義務も全くない厄介な仕事を押し付けられてしまったのだ。たまになら我慢もできるのだが、こうもしょっちゅうとなると話が違う。精神的にも体力的にも。
今回はいい加減に結構はっきり「嫌です」と言ったのだけど、僕が本当に怒っていたのだということは結局最後まで誰一人気がつかなかった。
この性質はある意味で得することも多いけど、時折無性にむなしくなるのだ。
せめて一人ぐらい僕の不機嫌を察してくれてもいいのにと思ってしまう。まるで弟や妹が生まれてすねてる子供みたいだ。
しかしそんな心境なぞ全く知らぬ(そして気付かぬ?)恋人三宅は帰ってきた僕をちらと一瞥し、「おっつかれちゃーん」と言ってさっきからもくもくと食べていたらしい牛乳プリンに視線を戻してしまった。
僕は深いため息をついて手を洗った。三宅はそんな僕に向かって能天気に声をかける。
「んねー。君におすすめの曲があるんだけど」
「なに?藪から棒に」
「サビがねー、いいの。君に」
僕は適当に相槌をうちながら冷蔵庫をあけた。三宅がつくった冷しゃぶが入っていた。僕たちは1日置きのご飯当番制なのだ。
三宅オススメの曲がゆるゆると流れ始めた。昔っからいる有名なロックバンドのボーカルのソロだ。初めの方は嫌いじゃない。嫌いじゃないけど…。
なんでこれが僕にオススメなんだ?
僕はビールをぷしっとあけた。「いただきます…」
三宅はプリンをスプーンで骨の髄まですくいあげ(あ、プリンには骨がなかった。)つつ、曲に合わせゆれている。
サビは思ったよりもすぐにきた。そしてそれに合わせ三宅は声をあげた。
「♪やすみーがひつようだ」
僕はあやうくビールを吹き出しかけた。あぁ、たった一人がいてくれてよかった。