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くるり・『キャメル』
僕の恋人の三宅はわかりやすい。
今日も何か嫌なことがあったようだ。気の強そうな瞳にうっすらと涙をためて帰ってきた。
「バイトで失敗していつもやっさしー店長に怒られてパニックになってばかみたいに言い訳したらとうとうマジギレされて呆れられてしまいました。風呂入ります」
そう言うと三宅は風呂場まで駆け出していった。僕は慰めようとしたありきたりな台詞と手のひらを宙に浮かせそんな彼女を見送った。
相当ショックだったんだろうなぁ。例えばマスオさんとかジャムおじさんに怒られたらかなり精神的ダメージを受けるだろう。以前彼女がその様なことを言っていた気がする。多分、今の彼女の心境はそんな感じなのだ。僕は彼女のバスタオルを置きに脱衣所まで向かった。
すると奇怪な声が風呂場から響いてきた。風呂の声って自分が思っている以上に外に響くのだ。
…どうやら、三宅は浴槽の中に顔をつっこんでぶくぶくと何やら申し立てをしているらしかった。多分僕に聞こえないように。
残念ながら聞こえるんだなこれが。
僕は半分笑いながらドアの外で聞き耳をたてる。
「しっぱいはせいこうのもとなんてうそだばかやろーぶくぶく」
「いつもしっぱいばっかりでなんのせいちょうもしてないわばかやろーぶく」
「いいわけしてるひまあったらきっちりあやまれじぶんーぶくぶぶく」
「いつまでこのままばかのままでいるつもりだばかーぶくく」
「いつまでたってもーかわらないことは…いつまでたってもかわらないこのーみやけー。ふふーふふふふーふんふふふぶくぶく」
折角僕は三宅の自分への誡めに少し感動していたのに、それはいつの間にか彼女の好きな歌の替え歌に変化していた。僕はやれやれと首を振った。三宅ってそんなやつなのだ。