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203号室 尾路山誠二『アインシュタイン・ハイツ』

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「あ、伊田君……?」
 その時、ふっと力が抜けたようにグッタリと体重を預けてきた。
「……そうか、伊田君。君はもう……」
 俺はそっと彼の瞼を閉じてやった。それから使い古された箒のような頭の彼を近くの電信柱に寄りかからせて、俺は立ち上がった。
「君のことは忘れない。さらばだ伊田二等兵」
 仲間に別れを告げて、俺は赤い赤い夕陽に向かって駆け出した。夕陽はまるで戦場に流れる血のような赤さだったが俺がこれから向かうところは戦場――のはずがなく、自宅に向かってだ。
 つまり帰宅である。
「もう付き合いきれるかぁーー!!」
 俺の叫び声は住宅街に木霊して、カラスを飛び立たせた。