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203号室 尾路山誠二『アインシュタイン・ハイツ』

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近くて見えぬは睫:エピローグ



 伊田君の尾行調査査定が終わった翌日、珍しいことに調査依頼があった。依頼主は最近夫の帰りが遅い、浮気をしているのではないか、と疑っていて浮気調査を依頼してきた。
 モヒカンさえどうにかできれば伊田君が調査依頼の担当でもいいと丸腹には伝えておいたが、伊田君は家に引き篭もってしまって今日は出てきていなかった。さすがにやりすぎたかな、と反省した俺は、依頼を断ろうとしていた丸腹を止めて俺が調査すると申し出た。
 というわけで、依頼のあった翌日の今日の早朝からずっと一人の男をつけている。
 かれこれ半日も後を付けているのだが、気づかれた様子はない。伊田君の行動の真似をしているだけなのだが、十分機能しているようだ。
 伊田君を乗せるために言ったことだが、今の自分は本物の探偵みたいになったようで気分が上がる。探偵っぽいと会社のメンバーに言われたのだから、容姿も含めてそれなりに様になっているのではないだろうか。
 そうして一人にやにやしていると、不意に対象が立ち止まったので顔を引き締める。急いで近くの電信柱に隠れた。
 俺は体が細いし、こちらを振り向く前に行動していたからバレていないだろう。不謹慎だが、案外楽しいんじゃないか、などと考えたりもしていた。
 しかし、――
「オイ、てめぇさっきから付けてるだろテメェッッ!!」
 気づいたら、目の前に対象の暑い胸板が俺を押しつぶさんばかりに迫ってきていた。うそだろ? なんでバレた……?
 その疑問に答えるかのように対象の男が言った。
「その爆発頭が目障りなんだよォッッ!!」
 はっとして頭を押さえる。が、時既に遅し。
 あれだけ伊田君の髪型を指摘しておいて、このザマだ。……いやぁ、灯台下暗しというか、近くて見えぬは睫というか……。伊田君に後でしっかり謝ろう。
 でもまず、俺がしなければいけないことは顔面に迫りくる拳をどう回避するかだ。
 
 1.横に移動して交わす

 2.拳をいなして交わす

 3.土下座でもなんでも行って、許しを請う

 さぁ、どれだ! どれかを選ばなければ助からない! どうする、どうする俺!? よしじゃあ俺は3番を選「ぶへぇぇぇっ!」
 オッサンの醜い悲鳴がとある町中で響き渡っていった。
 

 <おわり>