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203号室 尾路山誠二『アインシュタイン・ハイツ』

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「まっ、ということで、みんなこの子を探してきてね」と言って丸腹は、作戦書類を俺以外の全員に回した。「この地図辺りにいると思うから」
 みんな思い思いに書類と睨めっこし、
「ひゃ、百万円ですよ、尾路山さん!」
「百万円あったら、お店……んふ、再興できるかしら」
「ねーねーにゃん子ちゃん! 百万円って結構薄いって知ってる? 俺といっしょにそれを確かめようぜー!」
「社長! 私も今回ばかりは出てきます。お茶だしなんてしていられません!」
 ひゃっくまん、ひゃっくまん、と自分の手元に入るわけではないのに、まだ見ぬ札束を妄想してそれぞれのペースでそれぞれの道具を持って出て行った。
 オフィスには、俺と丸腹だけが取り残された。
「おい、丸腹」
「なんだ、尾路山」
「お前、暇なら一緒に行けよ」
「お前、俺が無能なの知っているだろう?」
 自覚あるのかよ。まぁ、それなら仕方が無い。仕方が無くはないが、仕方が無い。行っても役立たずなら行かない方がいい。
「まぁでも、今日の営業回りは俺が行くわ。お前と二人っきりなんてつまらんし、仕事しないと南君にケツ蹴られるし」
「そうすれ、そうすれ。俺はこの書類片付けたらどうする?」
「うーん……帰っていいんじゃない?」
 この会社の舵取りが適当なことを抜かして、「そんじゃ行ってくるわ」と手を振って出て行った。そのいい加減な態度は慣れっこなので溜め息など出る筈もない。
 俺は丸腹の机のリモコンを操作し、プロジェクターやらスクリーンやらの電源を落とし、ブラインドを上げる。
 再び日の光が差し込み、俺は机のスタンドの電気を消した。
「今日も平和だなー」
 窓から見える、会社の建物のそばに立つ桜の木が、満開になった花を揺らしているのを見て、そう呟いた。