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和尚さんの法話 「地獄」

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「――― 一日一夜を経、忽ち自身を見るに一つの海辺へ倒れり。」

ふっと気が付いたら海辺に倒れてたんですね、それは娘さんの魂が、仏様の力によって地獄へ連れて行ってくれたのです。

そこへお母さんが生まれていったんですね。


「其の水勇沸して諸の悪獣多くことごとく皆鉄身を見るなり。」

鉄で出来た身体なんですね、あの世ですから、あの世というのは、どんな不思議なことがあっても不思議じゃないんです、鉄で出来てる獣とか、鳥とか、我々の住んでるこの世には無いけど、
あの世へ行ったらどんな不思議なことがあってもちっとも不思議じゃないんです。

それは仏様方が、菩薩様方が変化してるんです。

神通力で変化して、良い者には良い方に導くために、悪い者は悪い者にというふうに、そういう姿に変化してるんです、仏様や菩薩様方があの世でね。

「海上に飛び走り、東西に馳逐す。諸の男子、女人百千万数、海中に出没して、諸の悪獣」

諸の悪獣というのは、皆衆生済度のためにそういう悪獣の姿になって脅かして諭してるんです。

お前は娑婆で悪いことばっかりしてきたから、こういう地獄へ落ちてきたんだぞ。

悪いことをしたらこんな目にあうんだぞと戒めて、悪いことは出来んな、ということを判すために地獄というのがあるんです。

然しながら地獄へ落ちたらとても仏様方が変化しているなどとは、とても思えませんからね。

痛みがあるというと本当に痛いんですから。

或るお経にはこの世の苦しみと地獄の苦しみとを比較したら、この世の苦しみは極楽みたいだとあるくらい、それくらい地獄の苦しみは辛いんだそうです。


「争い取りて食噉(じきだん)せらるるを見る。」

悪獣に食いちぎられる、あの世ですから霊魂ですね、霊魂というのはいくら食いちぎられるといっても、それで死ぬということはないんです、死なないんですよ、死んでもまた生き返り生まれるというのです。

肉体は死にますけど霊魂は死なないんです。

死んでも仮の死であって、本当の死ではないんです。

だから罪を受けて死んで、また生き返って死ぬと、何遍も死んだり生まれたり繰り返すんですね地獄というのはそういう所なんです。


「又、夜叉(やしゃ)を見る。其の形各々異なり、或は多手、多眼、多頭多足、口牙外に出で利刃(りじん)剣の如し。」と、

まぁ実際にこの姿は見ていませんが、恐ろしい姿ですよねぇ。

「諸の罪人を驅(か)りて悪獣に近付かしむ。」

諸々の罪人を追っていくんですね、そしてその悪獣のところへ逃げて行っては悪獣に食いちぎられると、そういう状態ですね。


「其の形万類にして敢えて久しく見られず。時に婆羅門の女、念仏力を以ての故に自然に恐れ無し。」
普通だったら怖いはずですが、このお方は念仏力持っているのでちっとも恐くないんですね。


「一人の鬼王有り、名付けて無毒と云う。来たり迎えて聖女に白して申さく。『善哉、菩薩、何に依りてか此処に来る』と。

一人の鬼が現れて、善哉菩薩とは何遍も何遍も生まれ変わりして修行をして菩薩の位にまで上がってきたんですね娘は、だから鬼が菩薩様とこう言ってるんです。

その婆羅門の娘は、何遍も何遍も生まれ変わり死に変わりしながら修行をして、菩薩の位になっていたんですね。

だからこの鬼が、菩薩様と言うたんですね。

その鬼が何であなたがここに来ましたかと聞いているんです。


「女無毒に問うて曰く『これはこれ何れの所ぞ』」これはいったいどういう所ですかと


「無毒答えて曰く『我聞く鉄囲の内、地獄中に在り』と。無毒答えて曰く。『実に地獄中に有り』と。聖女問うて曰く『我今、如何が此処に倒るや』と。」
どうして私はここに来たのですか、と聞くんですね。

鉄囲山という霊界の山があるんですね、その山の中に地獄があるんです。


「無毒答えて曰く。『若し威神に非ずんば即ち業力なるべし。此の二事に非ずんば終に倒る事を得ず』と。」

仏様の力によってここに来たと。

そうでなかったらここへ来るには業のよって来るしかないと、この二つしかないと。


「――― 無毒聖女に曰く『憂念し悲哀する事勿れ、聖女の母、孝順の子の供養を受くるが故に天に生じて今三日を経たり。聖女本処に還り給え――― 』と。婆羅門の女、次いで夢の如くにして還る。」

鬼が答えて、あなたのお母さんはあなたの功徳によって天に生じたというのです。

三日前までここに居たけど、あなたの功徳を受けて天へ生まれ変わったというのです。

どうぞお帰り下さいと、聖女夢のごとく、気が付いたら自分の家に戻っていたんです。

仏様の力によって魂を地獄へ連れて行ってくれたんですね。

お前の母はここに居ったんだと知らせてくれたのです。

そして、ふっと気が付いたら、自分の部屋で合掌して拝んでいたのです。

だから魂が仏様の力によって、地獄へ連れて行ってくれて、おまえの母はここに居ったんだと知らせてくれたんですね。
こういう一説なんです。

― 地蔵菩薩本願経 ― 


「其の時仏母摩耶地蔵菩薩に問うて曰く、」
お釈迦様のお母さんで摩耶夫人というお方が天上界の忉利天と言うところに生まれ変わっておった。

この地蔵本願経というお経はこの世で説いたお経じゃなくて忉利天でお釈迦様が説いたお経なんです。

インドには安居といって日本でいう梅雨のような時季があって、4月の中頃から7月の中頃まで雨が降るんです、ですので托鉢に行けないんです。

それで或る一箇所に集まって、先輩の法を聞き仏様の法を聞く期間を安居の3ヶ月の間を設けてるんですね、その案居は毎年あるんですが、或るとき、お釈迦様は自分のお母さんのためにも説法しなければということで、その案居を忉利天で行ったんです。

その三月の間にいろんなお経を説いているんですが、その中に、この地蔵本願経というお経も説いたわけです。

お母さんが、忉利天にお生まれになっていますので、忉利天で説法なさったのです。

今の坊さんは、こういうことを信じないですね、90日もそんな忉利天というところへなんか、行けるはずがないと。

忉利天へ行くのは、肉体が行くのではなくて、魂だけが行くのです。

禅定に入って、そして魂が肉体から抜けるんです。

その魂が空中を飛び回るのを、神速通(しんそくつう)と言います。

六神通と言って阿羅漢以上の仏さんになると持っていてその中に神速通というのがあって、空を飛び回るという通力があるんです。

そういう通力があって、禅定に入って、霊魂が天上界の忉利天へ上って、そこで説法したというお経なんです。

それはお母さんのために説教したというお経です。

「『聖者、閻浮の衆生、造悪の差別、所受の応報其の事云何』と。」

閻浮というのはこの地球上のことを閻浮と言います。

どんなことをしたら、どんな所へ行って、どんなことをしたらどんな地獄へ行くんでしょうかという質問なんでしょうね。

どんな地獄へ行ったらどんな報いを受けるというような説ですね。


「地蔵答えて曰く『――― 若し衆生有りて父母の孝ならず、或は殺害に至らば無間地獄に堕して千万億劫にも出でん事を求むるも期無かるべし。』
作品名:和尚さんの法話 「地獄」 作家名:みわ