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いまのじ@失踪中
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アインシュタイン・ハイツ 105号室

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里帰り、道中。


「あ、チョコレート買うの忘れた」
「忘れたって充分だろ。グミばっか買いすぎなんだよ、お前」
「グミ。おいしい。すき」
「……なんで片言?」

 田舎に向かう鈍行電車の中。通路を挟んだ向こう側のボックス席に陣取った男女二人組が気だるいながらも楽しげに話していた。それまでの会話と合わせて察するに、彼らの名はそれぞれ「コノエ」と「ユウサン」であり、二人は実家に帰省する途中であるらしい。

「だいたい、考えなしなのよ、悠さんは」
「考えてるよ。それに、いいじゃん。母さんたち喜んでたんだし」
「そうだった。あんた、この前、勝手にウチに電話したでしょ。何話したのか知らないけど、お母さんから『とうとう悠くんとお付き合い始めたのね』ってメール来たんだけど」
「ちゃんと、『うん。毎日ラブラブです』って送った?」
「送った」
「え……え!?」
「ちょうどエイプリフールだったから。『そうよねー』ってお母さんも」
「ひどい!!」

ぱあ、と華々しく輝いた「ユウサン」の顔が、一瞬にして悲しみにくれる。「コノエ」は特に気にした風もなく、黄緑色のパッケージを開けるとグミを一粒口に放り込み、なにこれ硬さが気持ち悪い、と眉を寄せ呟いている。その結果、「ユウサン」の悲しみは一段と増したらしい。車両内に人がほとんどいないのをいいことに、大の男がもぞもぞ座席に丸くなるという非常にモラルを問いたくなるような行為に出た。ひどいよ木枝俺の純情を何だと思ってるんだよなんかブンブンいってるしつか俺ポテチ食べたいって言ったのにグミばっか、とよくわからないことを恨めしくつぶやいている。これは彼のためにも彼女のためにも「コノエ」がどうにか言い含めて収集しなくてはいけないのではないのかな、と思って見ていたのだが、「コノエ」は驚くほど鮮やかに無視を決め込み、真剣な顔でグミを食べ続けているだけだった。いまどきの若者はこうなんだろうか。ややあって、蛹と化していた「ユウサン」は何事もなかったかのように座席に座りなおし、「コノエ」にグミをもらって食べていた。いまどきの若者はこうなんだろうか。

「………うん。俺はこの硬さすきだけど」
「馬鹿してないで早く言いなさいよ。あげる」

袋ごと残りを「ユウサン」におしつけ、「コノエ」は次に水色と赤色が半々に使われたパッケージの封を切った。それから、「ユウサン」はおとなしく黙々と押しつけられたグミを食べ空いた袋をうまい具合に丸めることに必死になり、「コノエ」はどうやら今しがた開けたグミは気に入ったらしくやはり黙々と消費し続けていた。