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いまのじ@失踪中
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アインシュタイン・ハイツ 105号室

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ある春の日常


 遠道木枝は困っていた。ゴミ出しの日がはっきりしないとか、なぜかいまだ隣人にあったことがないとか、そもそも他の住人を見かけない気がするのはまあひとまずいいとして、はたしてこのハイツで同居は問題になるのか否かということである。

「え?じゃあ同棲って言えば?」
「言葉遊びをしてるわけじゃないんだよね。大体あんたといつ恋仲になったの」

木枝のそっけない物言いに彼女の幼馴染、佐崎悠心は肩を竦めて、たかが一日二日、一・二週間で、と呟く。わかってない。たかが「一日二日」という「事実」を、他人が信じてくれるかどうかが問題なのだ。万引きをして捕まって鞄から衣服から大量の商品を取り出しつつ、「初犯なんですー」と主張したところで果たして他人の目にどう映るかという話。それと一緒。二十年は生きてきてるくせ、僕は他人の言うことは全面的に信じる主義です疑うなんて心が汚れてるとは言わせない。

「だいたいさ、ここってそんな厳しいの?」
「厳しくはないはずだけど。大家さんも、なんかこう、そんな感じだし」
「どんな感じだよ」
「多分、ちらほら二人住まいのとこがあった気はするんだよね」
「把握しよーぜ、木枝ちゃん」
「うるさい。人覚えるの苦手なの!」

その返答の何が気に入ったのやら。くつくつと機嫌良く喉を鳴らす彼を木枝は足蹴にして、溜息をつきながら腕を組む。わざとらしく部屋の隅まで転がっていった悠心は、コノちゃんが冷たいよう昔はユウちゃんだいすきっていってたのに、と何やら現実を呪っている。対する木枝は悠心の言葉を気にした風もなく、小さく丸まった男を眺めながら、このままゴミ袋に入れて捨ててやろうかしら、と考えていた。ここは一階であるし、その気になれば悠心一人ぐらい運べるだろう。危惧すべきは住人との遭遇だが、そういう趣味の人だと思わせておけば色々便利かもしれない。いややっぱ不審者すぎるかそれは。そこまで考えた辺りで、黙り込んだまま動かない木枝に気付いた悠心はのそりと起き上がった。残念。

「煙草いい?」
「吸いたいならでてけ。そのまま帰ってくんな」

言ってやったのに木枝の言葉は当然のように無視をして、窓を開けた悠心は取り出した煙草に火をつけた。