パワーガール
あたしは今専門学校に通ってる。福祉と心理の学校で、大阪の中心である心斎橋や難波が近い。専門学校はクラス変わらないからみんな仲良し。「タバコ行ってくるわ。」「おう、いってらっしゃい。」亜樹に告げて喫煙所に向かった。喫煙所には美苗とやっちゃんがいた。「リルおはよ!」「おはよう。この暑さ何なん?どうにかならんの?」「無理。千年猛暑やから。」「それ毎年ニュースで言ってない?温暖化怖すぎる!」ふざけたことを言い合う、気楽な関係。専門学校は歳がバラバラだからおもろいよね、美苗とやっちゃんは年下。というか、あたしがみんなより4つ年上。あ、あたしは今年25歳。だから、周りは21歳がほとんど。亜樹は25歳であたしと同い年。この学校に入学して初めて出会ったけど、意気投合しすぎてすぐ仲良くなった。そして、「何でも屋リルハ」という看板を背負わせた張本人。「りっちゃん、今日3限小テストやってさ。」「うそやん!聞いてないし。」「なんか、簡単な問題らしいよ?それで成績稼げやってさ。」「リルなら余裕でしょ?この秀才め!」「秀才じゃない、努力の賜物と言ってください。」「余裕かましてる!ずるい!」と美苗とやっちゃんは声を揃えていう。でも、本当にあたしが努力してるのを分かってるからこうやって面と向かって言ってくる。嫌味とか妬みとかじゃなくて、からかいに近い。4歳も下の子にからかわれるあたし。
チャイムがなった。「はいはい、教室戻るで。テスト頑張りなさい。」3人で教室に戻った。テストは超簡単で美苗とやっちゃんもちゃんと解けたらしい。良かった良かった。
放課後、あたしは心斎橋大丸へと向かった。晩御飯にはちょうどいい時間帯だ。今日は美味しいものが食べれそうだから、間食は我慢した。いつもなら3時のおやつはかかせないんだけど。ウォークマンはparamoreが流れている。洋楽のロックバンド。ノリノリで歩いていたら大丸前に到着した。入り口の近くに、今朝のOLさんが立っていた。
あたしが向かっていくと、気付いたようでニコニコしてこっちに手を振った。「学校お疲れ様。あと、今日は本当にありがとうございました。」「いえいえ、とんでもないっす!えーと、夏美さんでしたよね?」「はい、夏美です。今年25歳。」「え、ほんまに?あたしも25歳やで!」そこからは一気に距離が縮まる。同い年ってだけで親近感湧くよね、不思議だわ。「リルハさん、何が食べたい?」「リルハでいいよ。その代わり、あたしも夏美って呼ぶから。ん〜夏美のオススメは?」「分かった、リルハね。私のオススメは海鮮居酒屋かな。ここからだと5分ちょっと。チェーン店じゃないからそんなに混まないしめっちゃ料理美味しいよ。」「はい、決まり。連れてってくださーい。」そして2人で歩き始める。歩いてる時は他愛もない話。お互いの会社とか学校の話とか。
こうして何でも屋をしていると、その相談がきっかけで友達になってくことが多い。みんな、あたしのこの竹を割ったような性格と、裏表がないところを気に入ってくれているようだ。
「着いたよ。ここ!」そこは大衆居酒屋のようだ。中にはいるとサラリーマンが多い。「私もよく上司に連れて行ってもらうんだ、ここ。刺身は当たり前に美味しいけど、何てったってここの名物はちゃんちゃん焼き。食べたら感動するよ。」「へー、期待大やわ。」と言いながらあたしはメニューをチェック。刺身や天ぷら、お鍋に揚げ物。あ、よだれ出てきそう。「リルハの好きなの頼みな。でもその前にドリンク注文しよ。リルハ飲める?」「当たり前じゃん!あたしは自分で言うけど酒豪だからね。」そう言ってあたしはニヤリと笑う。「私も同じく酒豪。じゃあ飲み放題にしよう。」夏美は手際良く決めてくれて、店員に飲み放題の注文をして、やみつきキュウリとたこわさも合わせて頼んだ。
飲み物はすぐに持ってきてくれた。あたしは生ビール、夏美はジンジャーハイ。「かんぱーい!」そして2人でグラスを半分開ける。夏美は本当に酒豪のようだ。「リルハ注文していいよ、遠慮なく。」「ありがとう。遠慮なくご馳走になりまーす。」そう言ってあたしは、刺身盛り合わせ、軟骨の唐揚げ、海鮮焼きそば、出し巻き卵、ちゃんちゃん焼きをオーダー。「本当にご飯をご馳走するだけでいいの?リルハ変わってるよね。お金とったら絶対儲かるのに。」「お金よりこうやって一緒にご飯食べてる方が楽しいもん。それに、食費も浮くからね。ほんで、友達の輪もひろがるし。お金とるよりもこっちの方が好い事尽くしなんだよ。」最初からお金をとるつもりはなかった。元々は友達の相談に乗ってただけだし、それが噂になって広まって看板ができたけど、やり方を変えるつもりはなかった。それにご飯大好きだし。いろんなご飯屋さんにタダで行けるなんて幸せすぎるでしょ?
二時間ほど夏美と喋りそのままお別れをした。「ごちそうさまでした、ありがとう。」「とんでもない、助かったのは私の方だから。また連絡してもいい?」「もちろん。いつでも連絡して。」「その時は割り勘ね。」そう言って夏美は笑った。「何でも屋リルハの3カ条。」あたしはそう言った。何それ?という顔で夏美が見ている。「その1、お金は取らない、代わりにご馳走。その2、ご馳走になるのは相談後のお礼の報酬のみ。その3、相談者は16歳から。義務教育者は受け付けない。これ、あたしが勝手に決めた3カ条。」得意げにあたしは3カ条を発表した。「リルハほんっとうにおもしろいね。」「それ最高の褒め言葉。ありがとう。」「その3は何で16歳以下はダメなん?」あたしは16歳以下は相談を受け付けないことにしている。なぜか。「あたし子供嫌いなんだよ。」そう、あたしが唯一苦手なもの。それは子ども。13歳とかならまだいいけど、小学生はどうしても無理。なんか、同じ目線に立つことができないから。イライラしてくるんだよね。良くないって分かってるんやけど、うん、無理なものは無理。「意外だね!リルハ子供にめっちゃ好かれそうなのに。」「好かれないよ、寄ってくんなオーラ出してるから。子どももそれは読み取れるみたいよ。」「私は子ども可愛いと思うけどな。」「それは、個人の価値観。夏美は好きでもあたしは無理。人それぞれ。」
今日は飲みすぎたな。と独り言を言いながら夜道を歩く。大阪は夜中でも人が絶えることがない。賑わっているというのか、ただ騒がしいだけなのか。商店街を通ると、これから出勤なのか髪を盛ったギャルたちやホストたちが忙しなく歩いている。一人のホストがよってきて、「ねえ、クラブとか興味ない?お姉さん絶対イケるよ!」と声をかけてくる。内心ふざけんなと舌打ちしながらも「間に合ってます。」と笑顔で答える。そして、それ以上は喋らない。まだしつこくついてくるようならあたしは叫ぶ。タチが悪いのはどっちだよってね。