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レンタル彼氏。~あなたがいるだけで~

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 美奈恵は笑いながら、剛史と位置を入れ替わった。今度は剛史が下になる。長い脚を投げ出して座った彼を向かい合った美奈恵が脚を開いて彼を挟むようにして膝立ちになる。
 流石に最初は緊張する。わずかな躊躇いを見せると、剛史が労るような声音で言った。
「美奈、無理するな。何もフェラチオなんてする必要はないんだから」
 ううんと、美奈恵は微笑む。
 口には出さないけれど、心の中で呟く。
 最後に大好きな男に心をこめて、してあげたいの。
 そう、別離の瞬間は刻一刻と近づきつつある。剛史と一緒にいられるのも、あとわずか―。ならば、今、自分にできる最高のことをしたい。
 美奈恵はありったけの勇気をかき集めて、剛史のいきりたつ剛直に顔を近づけた。おずおずと舌で触れると、それは少し独特の蒼ずっぱいような味がした。けして美味しいと思える味ではないけれど、大好きな彼の一部だと思えば、これも愛しい。
 舌でなめらかな竿に円を描いてみる。先走りの蜜が既に滴となって溢れていた。先刻味わったあの独特の味はこの蜜の味だったのだと知った。
 彼の屹立は反り返るように堂々としている。こんなに大きなものが自分の狭い胎内に入っているのだと考えると、やはり今でも怖い。しかし、少しの恐怖は憶えても、彼が自分をそれだけ求めてくれていることの証だと思うと、不思議と受け容れる恐怖も薄らいだ。
 美奈恵の技巧はけして上手いものではなく、むしろ拙いものだった。けれど、おずおずと懸命に舌を這わせ続ける美奈恵の健気さがかえって剛史を煽ったようだった。
 丁寧に舐めている中に、屹立の硬度は更に増し、大きくなっていく。次第に剛史の口から低い呻きが洩れ始めた。
「―良いよ、最高だ、美奈」
 彼は手を伸ばし、美奈恵の髪に指を埋めて掠れた呟きを落とした。
 美奈恵は自分がこういう―いわゆる口淫で男性を昂ぶらせる技巧が巧みだと思ったことなどない。もちろん初めてではないが、かつての婚約者とのそれは相手に求められ、嫌々ながら一、二度行ったにすぎなかった。
 事実、健吾が美奈恵の口の中で達した時、彼女は口中に溢れた彼の精液に嘔吐感を催し、トイレでその前に食べたものまですべて吐いてしまったほどだったのだから。流石にそれ以来、健吾は美奈恵に二度とフェラチオを求めることはなくなったが。
「美奈、もう無理だ。これ以上、続けたら、お前の口で達してしまう」
 剛史が苦しげに言う。美奈恵は言った。
「良いのよ、剛史がそうしたいなら、私は構わない」
 あなたが望むのなら、今はあなたのすべてをこの身体で受け止めたい。
 心から、そう思った。その気持ちに嘘はなかった。
 だが、女の口中で達するのはどうやら剛史のポリシーには反するようであった。次の瞬間、美奈恵は気づかないほど、ひと刹那でベッドに押し倒され、快い彼の身体の重みを受け止めた。美奈恵は硬くて長いものを身体の中心で受け止め、両脚を彼の逞しい腰に巻き付けた。
 途端に烈しい抽送が始まり、美奈恵の身体は大きなベッドが軋むほど下から幾度も突き上げられた。
「はぁんっ、ああっ、剛史」
「美奈恵」
 二人はほぼ時を同じくして達した。剛史の大きな塊が更に膨らみ、美奈恵のすっかり感じやすくなっている膣壁を濡らしてゆく。入り組んだ襞一つ一つの奥まで熱い愛液が染み渡り、美奈恵はまた軽い絶頂に達し身体をかすかに震わせた。
 あまりにも烈しい快感に身体だけでなく心まで壊れてしまいそうだ。
 もしかしたら、この一夜で自分は身籠もったかもしれない。美奈恵にはそんな予感があった。妊娠しやすい時期だということもあるけれど、これだけ彼に抱かれ彼の精を幾度も最奥で余すところなく注がれ受け止めたのだ。
 妊娠していたとしても不思議はなかった。
 もし妊娠していたら、美奈恵は子どもを産むつもりだ。シングルマザーでも良い。剛史の子だから、大切に育てたい。
―でも、もしそんなことになったら、これで亡くなったお父さんやお母さんのことを悪くは言えないわ。
 母も父と駆け落ち同然に一緒になる前、既に美奈恵を妊娠していたのだ。結局、幾ら否定しようとしても、娘は母と同じ道を辿るものなのだろうか。
 けれど、美奈恵はもしそうなったとしても、後悔はしないだろう。大好きな男の子どもだから、誰に何と言われても産もうと思うし、その子を授かるようになったことを後悔なんてしない。
 お母さん、もしかしたら、あなたはお父さんと一緒になれて幸せだったの? 短い間だったけれど、二人きりで暮らせて、私という娘を授かり幸せだったのですか?
 今なら、美奈恵は母の気持ちが少し判るように思える。父も母も恐らく最後まで幸せだったに違いない。心から愛する人に出逢い、短い人生を精一杯生きた。そのひたむきな生を誰が否定できるだろう? 
 自分は確かに愛されていた。両親が求め合い愛し合った結果、望まれてこの世にやってきた。今この瞬間、生まれて初めて美奈恵は自分をこの世に送り出してくれた父と母に心から感謝することができたのだった。
 それは美奈恵自身が愛する男を得て、身も心もその男性のために燃やし尽くしたからに違いなかった。真実の愛に生きた人たちを理解するには、やはり真実の愛に目覚める必要があったのかもしれない。
 安らかな寝息が耳を打ち、美奈恵は我に返った。ベッドでは剛史が安らいだ表情で眠っている。あれだけ烈しい営みを幾度も経た後なのだから、疲れて熟睡するのも当たり前だ。
 何もかもを委ねて眠っている顔はまるで少年のようでもあり、美奈恵は愛しさが込み上げてくるのを抑えられなかった。
 美奈恵は声を殺して泣いた。そう、剛史が自分を愛していると彼自身からはっきりと告げられた時、何故、泣いたのか?
 その理由は彼には告げなかったけれど、はっきりしていた。自分たちに未来がないことは判っていたからだ。剛史と知り合ってからもう二十二年になる。この恋がいつから始まっていたのかは判らないが、見込みのない恋であることは判っていた。
 水無瀬家の祖母は絶対に剛史を孫娘の婿として認めはしないだろう。美奈恵自身はもちろん剛史とずっと一緒にいたい。だが、若くして亡くなった両親を事あるごとに悪し様に罵った祖母ではあれども、美奈恵にとっては大切な身内であり家族であることに変わりはなかった。
 五歳のときから大切に育ててくれたのだ。たとえ、その腕に一度も優しく抱いてくれることはなかったとしても。それなりの情は示してくれた人だった。その人を傷つけ哀しませてまで、剛史と生きる道を選ぶことはできない。
 そんなことをしたら、それこそ自分は父や母と同じ轍を踏むことになってしまう。祖母ははるか昔、愛娘である母に裏切られ傷ついた。その祖母を今また、母の娘である自分が同じようなやり方で裏切ることがどうしてできようか。
 美奈恵は力ない足取りで浴室に向かった。身体中に散った花びらは剛史が情熱的に彼女を求め刻みつけた痕跡だ。
―これで良かったんだわ。
 自分に言い聞かせた。たとえ別れがすぐ先に透けて見える儚い関係だったとしても、彼に抱かれても良いと思った。その想いは自分でも否定したくなかった。