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レンタル彼氏。~あなたがいるだけで~

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 剛史はすべてを美奈恵に注ぎ込んでしまうかのように最後の一滴までを彼女の中に出し切った。
 最後に二人は泡の立ったバスタブに入り、剛史は泡だらけの美奈恵を膝に載せ、狂おしい口づけを幾度も交わした。

 その後、二人は再びベッドに戻った。
 美奈恵は絹のようなやわらかな手触りの髪をベッドの上にひろげている。その上から剛史がすかさず覆い被さった。
 二人が烈しく身動きする度にベッドがかすかに音を立てて軋む。それが美奈恵にはあたかも自分の心の悲鳴のようにも思えた。
―どうするの?
 考えるのはそのことばかりだった。最早、剛史に隈無く愛撫される身体は痛みどころか、快楽を感じ、更なる悦楽を追い求めるほどになった。こんなことは考えたくはないけけれど、剛史は女体を知り尽くしていたし、その扱いにも怖ろしいほど長けている。
 殆ど処女に近かった美奈恵の無垢な身体をたった数時間で淫らな快楽をひたすら貪欲に求める魔性の身体に作り替えてしまったのだから。 
 そして、苦痛は去り彼から快楽ばかりを与えられるようになった今、かえってはっきりと見えてきたのは自分の気持ちだった。
―私は彼を愛している。
 元々、この想いに気づいていなかったわけではない。彼に何度かキスされた時、あれほど狼狽えてしまったのも、やはり彼への想いが根底にあったからなのだと今なら判る。
 今夜、最初に押し倒された時、烈しく抵抗したのは、好きな男相手でも陵辱されるような形で抱かれたくはなかったから。結局、最初の交わりは痛みと苦痛を与えられ、美奈恵の意思はことごとく無視され陵辱されてしまったのだけれど。
 それでも、美奈恵は剛史を嫌いにはなれなかった。ならなかったと言った方が良いのだろうか。むしろ、一夜に既に何度も彼に抱かれてしまった今では、彼への愛しさばかりが募る。
 だが、と、ここで冷静なもう一人の自分が告げる。
 自分たちの関係に所詮、未来もひと欠片の希望もない。?契約?が終われば、別れが待っているだけ。残る現実は、結婚式の三日前に花婿に逃げられた花嫁と代役の花婿として雇われたレンタル彼氏なのだ。
 美奈恵がとりとめもない物想いに耽っていると、剛史がめざとく感じ取ったようだ。
「美奈、何を考えてるんだ?」
 逞しい彼の腕という檻の中に閉じ込められ、美奈恵は淡く微笑んだ。
「ううん、別に何も」
 と、剛史が悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「お前、自分が嘘つくのが超苦手な女だってことを知ってたか?」
「えっ」
 美奈恵が眼を丸くすると、剛史は更に意地悪を言う。
「今だって、考えてることがまともに顔に書いてあるもんな」
「そ、そうなの?」
 慌てて手のひらで頬をごしごしこする美奈恵を見て、剛史は大笑いだ。
「バッカだな。んなわけないだろうが」
 剛史は堪えかねたように肩を震わせて笑っている。
「二十七にもなって、そんな嘘を容易く信じるっていうのもなぁ」
「どうせ、私は馬鹿ですよ」
「今時は三歳児でも信じないと思うぜ」
「どうせ私は子どもです」
 むくれてそっぽを向くと、剛史が更に意地悪な笑みを刻んだ。
「子どもがこんな良い身体してるわけないだろ。お前の胸がこんなに大きいなんて知らなかった。お前って着痩せする質なんだな」
 剛史の視線が無遠慮に胸に向かっているので、美奈恵は紅くなりながら両手で胸を隠した。
「そんなにじろじろ見ないでよ」
 また剛史が吹き出す。
「お前って、本当、面白い女。俺たちはもうさんざんヤッたんだぞ。今更、胸なんて隠して恥ずかしがってんじゃねえよ」
「ヤッただなんて、そんな言い方は止めてよ」
「じゃあ何て言えば良い?」
「よ、よく判らないけど、愛を交わすとか」
 と、またひとしきり大笑いされ、美奈恵は今度こそ完全に怒った。
「何よ、人が真剣に応えてるのに」
「だって、お前。それって、ハーレクインとか、そういう系統のロマンス小説の読み過ぎじゃないのか。今時、愛を交わすだなんて古風な言い方するのは美奈くらいのもんだ」
「もう良いっ。剛史となんか口きかないもん」
 憎らしいことに、剛史は涙眼で笑っている。
「済まん、機嫌直せよ。でも、美奈が俺じゃない何か別のことを考えてたのは丸分かりなんだからな。これで上手く俺をはぐらかせたなんて考えたら甘いぞ」
 真顔になった剛史に美奈恵は慌てて言った。
「別にたいしたことじゃないから」
「いや、駄目だ。俺たちの記念すべき初夜に、お前がたとえ一時たりとも他のことを考えるのは許せない」
「何よ、変な理屈」
「変な理屈でも良いんだ。とにかく、お前が別のことを考えちまうのはまだまだ俺の努力が足りないと見た」
「ええ?」
 刹那、嫌な予感がする。案の定、剛史はニヤニヤと笑っている。
「つまりだ、俺がまだお前を愉しませ足りないから、お前が考え事をしてしまう暇があるってわけだ。だから、もっとお前を抱いて俺のことしか考えられなくさせないとな」
「冗談、これ以上、こんなことを続けたら、私は身体が保たないよ」
 これは冗談ではなく、百パーセント本気だ。
「剛史はよく身体が保つね」
「男は惚れた女が相手なら何度でも達けるんだよ」
「剛史が絶倫すぎるのよ」
 美奈恵は言いながら身体をベッドに起こした。
「じゃあ、俺の絶倫ぶりをまた試してみるか?」
「もう良いってば。剛史は良くても、私は無理」
 美奈恵がベッドから降りようとするので、剛史が後ろから抱きついてきた。
「なあ、美奈。もう一回、やろうぜ」
「だから、ちょっと休ませて」
 美奈恵は床に落ちていたローブを拾い上げた。肩から羽織ろうとすると、剛史が言う。
「判った、しばらく何もしないから、せめて何も着ないでくれ」
「裸でいろっていうの?」
「うん、そのとおり。せめて眼の保養だけでもさせて貰わないと」
 ご機嫌で頷く剛史に毒気を抜かれ、美奈恵は仕方なく一度着たローブをまた床に落とした。
 裸のままというのが何とも居心地が悪いが、我慢して冷蔵庫を開けた。
「何か呑む?」
「俺は良いよ。美奈は何か呑んだら?」
 美奈恵は冷蔵庫を覗き込む。
「コーヒーでも飲もうかな?」
「どうせ呑むなら、アルコールの強いヤツを呑めよ。酔うとお前、物凄く色っぽくなるから」
「やだよ。剛ちゃん、今夜のワインって何かやたらと強くなかった? もしかして、あれって、わざと私を酔わせるためにアルコール度数の強いものにしたとか言わないよね?」
「さあね」
 空惚けているその顔を見れば、美奈恵の推測が的中していることが知れる。
「やあね。女を酔わせて、どうにかしようなんて犯罪者の考えることだよ」
「犯罪者はないだろ。確かに酔わせてみたいとは思ったけど、流石にこうなるとは俺もそこまでは考えてなかったさ。酔うと、お前って物凄く艶っぽくなるもんな」
「そんな風に見えるのは剛史だけよ」
 美奈恵は笑いながら缶コーヒーを取り出し、プルタブを開けた。
「こっち来いよ」
 剛史が手招きするので、美奈恵は首を振った。
「いやよ。側に行ったら、何をされるか判らないもの」
 冷蔵庫の前で立ったまま缶コーヒーを飲んだ。全裸で立ったままというのは何とも体裁が悪いけれど、この際、仕方ない。
「美味しい」