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和尚さんの法話 「冥土の住人」

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それで息子さんが帰って、お母さんに、和尚さんがこんな話しをしてくれたと言ったんですね。

お父さんは僕のお父さんだとわかったけど、女の霊は乳飲み子を抱いた人で、その人が誰なのかわからないんだと。

それからお婆さんが、寺へ来てあのときの乳飲み子を抱いた霊が分かりましたと言ってきた。

お父さんがまだ生きていた頃の話しで、そのお父さんが、九州から京都に働きに出てきて、間もなく子供ができてその母親が乳飲み子を残して死んでしまったのです。

それで乳飲み子を残して死んだものだからお父さんは、仕事に行かないといけないし、乳飲み子はあるしで生活に困る。

というので大変困って、それで誰か子供の面倒をみてくれる人はいないかということで、面倒をみてくれる人を探して、ようやく働きにいくことができた。

それから三日か四日たつと、実は、といって子供を返しに来るのです。

それで困るから、また探すわけです。

それでまた快く引き受けてくれる人が見つかる。

それでまた三日四日たつとまた返しに来る。

また見つけると同じように三四日たつと返しに来る。

それが四人か五人続いたそうです。

町内の娘さんがそれを見ていて、あんなことをしていたらあの子は死んでしまう。

私があの子を育ててあげましょうということで、お母さんになってあげた。

ところが寿命が無く、まもなく死んだのです。

乳飲み子を助けようとして来たんだけれども死んだ。

そしてその後に生まれたのが、さきほど寺に来た男の子なのです。

それからお父さんも死んだ。

だから二人の霊魂というのは、最初の奥さんと、この子のお父さんだとわかったのです。

和尚さんはいつも、あの世というのはこの世の義理人情が延長するということを言っていますが、この霊魂がこの家を守っていると。

今の奥さんは後から来た奥さんだけれども、その奥さんを守っていると。

それは子供が世話になったからですね。娘さんが九州から働きに来ている男の人と、しかも子供がいる。

今の時代でもなかなか出来ないことですよね。

家族や親せきの反対もあったと思う。

それは、霊魂はよく分かっているのですね。

それでなんで三四日たつと子供を返しに来たかというと、初めは気よく子供を面倒みましょうというのに、四五日たつと戻しに来るから、それが四人目も五人目も同じように。

それで問い詰めたんですね。一体何故ですかと。

あなただけではないのですがと、一番最後の人に聞いたら、それなら言いますけど、この子を預かったら、あなたの奥さんが出てきます。

どうやって出てくるのですかと聞くと、宜しく頼みますと。

それが毎晩出てくるのですと。

だから気持ちが悪いというのです。

一晩なら夢でも見たのかと思うけど、毎晩出てくるから気持ちが悪いと。

だからあの子を預かったら幽霊が出るというので誰も預かり手がなくなってしまったのですね。

だから子供の面倒を見てくれたあの奥さんが、可哀相だというのでいつも見守っているということです。

が、子供は寿命がなくて死んだ。それでも感謝をして今でもその奥さんを見守っているのですね。

その亡くなった奥さんは、子供を頼むといって毎晩出たわけですが、それは気持ち悪くしてやろうとしたわけじゃないですね。

それくらい子供を気にかかっていたわけです。

そこへ家族の反対を押し切って、子供の面倒を見ましょうと、来てくれたということはよく分かっているわけです。

どんなに嬉しかったでしょうかね。だけど子供は亡くなってしまったけど、感謝しているので奥さんを見守っているのです。

だから霊界もこの世の恩とか人情というのは、あの世へいっても同じなんです。

我々人間は、肉体というものがあるがために、それに阻まれて本当のことが分からないのですね。

少なくとも人の心はわからないですね。姿だけでしかわからない。

ところが霊界は、我々のような肉体がありませんので、人間よりはるかに或る通力が得られる。

ただ舎利弗、目連さんのような阿羅漢さんや神様仏様にはかないませんが、人間には人間なりの通力が与えられるというか、自然に得られるのですね。

霊界とはそういう世界ですね。便利なところですね。

人間界の延長の世界ですね。

下へ落ちていたら具合が悪いですがね。

例えば地獄とか餓鬼とかは、これはもう例外ですけど。

人間界の延長だったら、我々人間よりも少しレベルが上がるようです。


あの世というのはそういうふうな仕組みですね。


それから或る人ですが、初めてきた人だそうです。

相談に来たそうですが、話しをしていると武士の霊が出てきたそうです。

武士の霊ということは、武士の時代に死んでいるのですね。

未だにあの世で武士なのですね。

それが如何にも残念、口惜しやという執念を残して、暗い部屋の中で死んだという感じだそうです。

これはこの人の先祖に違いないと。

つかぬことをお聞きしますが、お宅の本家を辿っていったら先祖は武士と違いますかと聞いた。

その方は奥さんで、それは詳しいことは知りませんと。

和尚さんは、武士に違いないと思ったんですね。

武士の時代に一人や二人死んでいて当たり前ですよね、ことさらこうして出てきているのですよね。

今、あなたの後ろに、非常に執念を残しながら死んだ武士の姿が出てきますと。

たぶん先祖に違いないと思いますと。

そんな昔の先祖のことは、この奥さんに聞いてもわかるはずもないので、その武士の先祖のために特別に阿弥陀様に、その先祖にお目をかけて頂きたいというふうに拝んであげたら、その先祖に通じるから、とにかく当分そうしてあげたらどうですかと。そしてその方は帰った。

四五日たってその方がまた来まして、先日和尚さんがおっしゃっていた武士の霊というのがわかりましたと。

あのときは、そんなことが、と半信半疑で聞いていましたと。

家へ帰ってその話しをしましたら、姑さんがびっくりして、仏壇から過去帳を持ち出して、それはこの人だといって示したというのです。

その話しによると、何代か前に、二条城に仕えていたのですね。

今でいう宿直というのがあったのですね、当番になってね。

そしてその先祖が、宿直の晩に城に盗難ごとが起こった。

その嫌疑が先祖にかかったのです。

いくら申し開きしても聞き入れられないで牢に入れられたのです。

宿直の晩にそういう失策したという罪は仕方が無いですよね。

そういうことのないために宿直というのをやるのに、それを失策した。

その攻めはしょうがない。

然しながらその犯人が自分だということは、これは濡れ衣だと。

これは拙者ではござらんと。

いくら言っても聞き入れてもらえない。

そして牢へ入れられて、お前でないなら犯人は他に在るはずだ。

その犯人が出てくるまでおまえは証明が成らんから、犯人が出るまで入牢を申しつけるといって入れられた。

自分ではないのに疑いをかけられたというので、これは残念だというので、血を出して、床に自分ではないと字を書いて、舌を噛んで死んだんです。

こういうことを過去帳へ書いてあったわけです。