りんごの情事
そして、二人は北澤高校に到着した。來未は職員室に行き、職員から書類を受け取った。
校庭では、サッカー部が練習していた。
「龍君、お待たせ」
龍は、職員用玄関から、サッカー部の練習の様子をぼんやり眺めている。
來未も、龍の傍に立って、練習に熱心なサッカー部の様子を眺めた。
あぁ、そういえば、來未の心残りは、このサッカー部にあったような気がする。
大したことではないが、かつて來未の目の前でグラウンドを駆け回っていたあの人は、サッカー部だった。
いつも、屈託のないさわやかな笑みを、來未に向けていてくれた。まるで太陽のような笑顔だった。
――來未!今日も応援ありがとな!
連絡、しなければ。
地元の友達には引っ越してそうそう電話して、來未はもう福井にいないことを伝えた。友達は皆残念がっていた。そして、來未の不遇な身の上を憐れんでもくれた。そんなやり取りだけで、來未は救われたように感じられた。
あの人には、何度か電話をかけようとしたが、怖くて何度も挫折し、受話器を置いた。突然東京に行ったという話をしたら、あの人はどう思うのだろう。
「・・・・來未さん」
來未ははっとした。
隣では、龍が心配そうに來未の顔を覗き込んでいる。
「あ、ごめん」
來未は取り繕うように、にっこりとほほ笑んだ。
それから二人は、駅前の商店街に行き、制服を受け取りに行った。
そのあと、龍お勧めのクレープ屋に連れて行って貰い、二人でクレープも食べた。
クレープを食べながら、龍はここからもう少し歩いたところに、明吉が通う高校があることを思い出し、口にした。來未は、多くのことを知っておきたいと思ったので、
明吉が通う高校にも行って見たい、と言った。