りんごの情事
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ファミレスで、來未の体力の回復を待っている間に明吉は昼食を取った。そして、しばらくしてから二人はホテルに戻った。
來未はベッドに横たわり、快適なホテルの部屋ですやすやと寝息を立てている。
明吉は、ソファに座って小さな音量でテレビを見ていたが、次第に飽きて来て、ベッドで眠る來未の様子を見ることにした。
來未は安心したように眠っているように見えた。寝息の規則正しいリズムで体がゆっくり上下に動いている。今日は可愛らしいピンクのワンピースを着て、いつもよりももっと愛らしく見えるのが憎い。白く透き通った肌とショートボブの他の人よりも色の濃い漆黒の黒髪のコントラストが美しい。ほんのりピンクに染まった頬とプルンとした果実のような唇。明吉は思わず、その黒髪に手を伸ばし、優しく撫でつける。そして、親指で頬にふれ、唇に触れる。
明吉は気分がおかしくなりそうだった。理性とよばれるものが邪魔に思えてきた。
この娘が自分のものになればいいのに。一体自分のどこがオオサキくんに負けているんだろう。確かにオオサキくんはイケメンの部類に入るかもしれないが、そこを差し引いても自分の方が良い男だと思う。自分は甲子園で優勝出来て舞い上がっているのだろうか。自意識過剰になっているのだろうか。
控えめだけどちょっと頑固で、でも芯があって優しいこの娘に、明吉はしっかり心奪われていることを自覚した。
その唇に触れたいと明吉は思った。
ベッドに横たわる來未の上に覆い被さって、欲望のままに行動しようとしたが、眠る來未の閉じた両目から涙が一筋零れ落ちてきた。明吉は驚いて、來未の顔を見つめたが、來未は起きる気配がなかった。相変わらず安心したような寝顔で、すやすや寝息を立てている。涙が出るほど幸せな夢を見ているのだろうか。
明吉ははっと我に返り、來未に触れないようにベッドの端の方に移動した。なるべく來未から離れて落ちるか落ちないか、ギリギリのところに横になった。やはり、ベッドの方がふかふかで、足が伸ばせるので気持ち良い。來未の前では一生懸命格好つけて疲れてない風を装っていたが、体全体に疲れが蓄積されているのを感じる。もう少しだけ横になっていよう。