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りんごの情事

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第7話




最近、榎本明吉をテレビでよく見かける。
多分、その界隈ではちょっとした有名人だ。



 中間試験と梅雨が終わると、季節はあっという間に夏となった。
 中間試験が終われば夏休みは目の前となり毎日があっという間に過ぎ去っていく。
 そうして夏休みに入ると、特に部活動に励むわけではない來未は、学校が主催する夏期講習のため、夏休みが始まる前と同様の生活を送っている。來未が通う高校は都内でもそこそこの進学校である。一人でも多くの生徒を有名な大学に進学させようと、学校側で勉強の機会を用意してくれる。
 ただ、休み前の通常授業のように隙間なく勉強に励むわけではなく、あくまで一日4教科程度の講習を受ける。
 來未は薬学部を志望することにした。なぜかというと、文系教科よりも理系教科の方が楽しいから、漠然とただ「なんとなく」。明確な理由はないのだが、両親が薬化学の教授だから、來未もなんとなく漠然とした感覚で憧れを抱いているのかもしれない。
 もしくは、保健委員会に所属しておきながら、傷病者の手当を行うよりも、その処置を施すための薬の効果について興味が湧いて来たのかもしれない。消毒液のにおいは昔から好きだった。來未が放課後に保健室に入り浸っている様子から、加藤風子など周りの人から「來未、看護師目指しているの?」と聞かれたことはあったが、看護師と言う進路を考えたことは一度もない。いずれにせよ、逃れられない血の繋がりという運命から、選び取った自分の道なのであろう。
 そういえば、甲子園東東京地区の予選が終了した。
 残念ながら來未の通う北澤高校は予選落ちしてしまった。加藤風子が「先輩達を甲子園に連れていけなかった!」と悲しみに打ちひしがれていたが、数日後には「来年こそは私が甲子園に連れていく!」と、主将が顔負けするくらい、男らしくなっていた。どんな高校球児よりも逞しい。
 さて、東東京地区から出場する高校は、下馬評通り、秀麗学園であった。百何校もある高校を下し、トップに君臨したのは、榎本明吉率いる秀麗学園。
 甲子園もわずかに近付いてきており、テレビでもその興奮冷めやらない。注目の選手はどこ代表の誰誰だとか、数年ぶりに甲子園出場を果たすどこどこの高校に密着取材だとかが放送されている。
 その中でも、注目の選手の一人として、榎本明吉がテレビに取り沙汰されることもある。
 一昨日、來未は泉谷龍と昔野の家で、甲子園の特集番組を観たが、その時も榎本明吉は「制球力と剛腕が持ち味のピッチャー」という形で称賛されていた(昔野曰く、明吉の良い点は勝負強いところで悪い点は真直ぐが過ぎるところ、らしい)。インタビューを受ける明吉はまるで違う世界の人のようだった。

作品名:りんごの情事 作家名:藍澤 昴