りんごの情事
数10分ほどすると、公園に着いた。
とりあえず、來未はベンチに座って、母親の傍で砂場で遊んでいる子供達を眺めた。
來未にもこんな頃があったのだろうか。
母親は來未が幼稚園に入る前から忙しくて、こうやって母子揃って公園デビューなどする暇なんてなかっただろう。
とその時、來未は膝の上にふわっとした暖かい重みを感じた。
膝の上に視線を遣ると、そこには虎猫が座っていた。
なんてふてぶてしい猫だ、と來未は思ったが、新生活で弱った心に、動物の存在は効く。
背中を撫でてみると、ふわっとした。野良猫かと思ったが、意外にごわごわした汚らしい感じはしない。
「君にはちゃんとお家があるの?寝るなら、ちゃんとお家で寝なよ」
と、來未は背中をなでながら虎猫に話しかけるが、虎猫はゴロゴロとのどを鳴らすだけだった。
「いいねぇ、君は。私も猫になりたいな」
猫のように自由に、気楽に、生きていきたい。
辛い思いなどせずに、気ままに…。
「…でも、君、ちょっと重いよ。どけてくれないかなぁ」
だが、虎猫はぴくりとも動かなかった。抱き上げようとしたが、断固としてその体勢を崩そうとはしない。仕方がないので、來未は膝の上の虎猫をそのままにすることにした。
徐々に來未の足は痺れてきた。
肥えた虎猫は中々重いのだ。
猫はふわふわしてかわいいのだが、だんだん拷問器具のように見えてきた。
しかし、虎猫は何の前触れもなく目覚め、ぴょんと來未の膝から飛び降りた。そして寝床を提供してくれた來未に感謝することもなく、一度も振り返らずに尻尾を高く上げて、どこかへ歩いていってしまった。
來未はホッと安心すると同時にほんの少し寂しくなった。
あの虎猫は、拷問器具に見えただけでなく、ほんのわずかな時ではあったが來未の友達であったような心地もしたのだ。
まぁ、猫だから仕方がないか、と思い來未は立ち上がった。
が、その瞬間、痺れによる電流のようなビリビリした感じが來未の足を流れた。
「し、しびれた…。ビリビリする…。」
來未は片膝をつきながら、少しだけあの虎猫を憎たらしく思った。