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りんごの情事

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 場所は変わってりんご荘。
 時刻はいつの間にか、お昼を過ぎ、15時をまわっていた。
 りんご荘の前に、一台の深い赤色のワゴンが止まった。
 そして、中から飛び出すように、パステルカラーの奇抜な格好をした女が出てきた。 
「うへぇっ」
 彼女の名は仁田村えり。独特のファッションセンスを持った、美術大学2年生である。
「政宗屁ぇ扱くなよ。超臭せぇし」
「マジ信じらんね」
 続いて出て来たのは黒沢一真と泉谷龍。黒沢は仁田村と同い年のイケメン大学生。龍は4月から高校一年生の青年だ。
「あ、天花は?」
「やべ、出て来てないのかよ」
 それから一真が車の中から引っ張り出してきた、小さな女の名は半田天花。身長150cmにも満たないが、仁田村や一真と同い年で、仁田村と同じ美大2年生。
 だが、現在は諸事情で顔が青ざめ、気持ちが悪そうである。
「うわわ、天花、大丈夫か」
「…外の空気って、気持ちいいんだね…」
 と、天花は言って一真の腕の中で気を失った。
 …フリをしただけだったが、最年少の龍はそれを本気にして、不安な表情になった。
「政宗さん、あなた…!」
 龍が軽蔑の目線をワゴンを向けると、中から中性的な顔立ちで金髪碧眼の男が出てきた。“政宗”と思われる男である。
「あぁ悪い悪い。でも出ちゃったもんは仕方ないからな。それに、ちょうど家に着いた時だったから、それで良いじゃねぇか。ははは」
「ははは、じゃないっすよ!天花さん、…死んじゃったじゃないっすか!」
「…死んでないよぅ」
と、天花が言うと、龍はハッとして天花を見た。
「あ、生きてた」
「龍クンってば早とちりんぼだな」
 ヘラヘラする“政宗”。
 見る人が見ればその笑顔は本当にまぶしいが、空気が読めない男、榎本政宗。仁田村達より一個上だが、職業はフリーターである。
「あー!!」
 突然仁田村が悲鳴を上げた。
「どうしたんすか?」
「ム、ムサシ…。ムサシが車の中に…」
 仁田村の顔が蒼くなっていく。
「ムサシ!」
 仁田村は慌てて車のドアを開け、中から大きなゴールデンレトリバーを引っ張り出した。
 この犬こそがムサシである。首には朱色の市松模様のスカーフをつけている。
 黄金の毛をなびかせ、普段なら立派な体格であろう彼の犬は仁田村に抱かれて、ぐったりとしていた。
「ムサシ・・・」
 犬の嗅覚は人間の数千倍とも数万倍とも言われる。
「政宗さん、やっていいことと悪いことの区別もつかないんすか!」
 弱り切ったムサシをみて、声を荒らげる龍。
「政宗、ヒドイよ」
 天花も、政宗を叱責する。
「政宗さん、ムサシに謝るッす」
「いや、龍、これはただの謝罪じゃだめだ。」
 一真が龍を静止して言った。
「政宗、お前、ムサシに土下座しろ」
 一真の暗く、冷たい視線と低い声が政宗に突き刺さる。仁田村もそれに乗っかり、土下座コールを始める。
「なんだよなんだよ、ただ屁ぇこいただけじゃないか、しかも、ムサシ死んでねぇし。むぅ・・・。」
 政宗はぶつくさ言いながらも、仕方なさそうに、仁田村に抱っこされたムサシの前に立ち、膝をついた。
 が、しかし。
「ギャワンギャワン!」
 政宗の気配に気付いたムサシは、仁田村の腕から飛び出し、いずこかへと走って行ってしまった。
「あ、ムサシ」
「僕が追いかけるっす」
 龍は仁田村を制止し、猛スピードで逃げるムサシを追いかけて行った。
 そして、残った仁田村と一真と天花は、政宗に軽蔑の視線を浴びせた。
「なんだよ、みんな。龍君が捕まえにいったから、きっと大丈夫だよ」
 殺伐とした空気をものともせずに、さわやかな笑みを浮かべる政宗だったが、仁田村は我慢ならずに政宗の頭を殴った。
「少しは反省しろ。この屁っ扱き男」


作品名:りんごの情事 作家名:藍澤 昴