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りんごの情事

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 ゴールデンウィークが終わると、來未の放課後は保健委員会の仕事に精を出した。ちょうど2週間後に体育祭が行われるために、救護班としての準備で忙しい。特に熱中症には気を付けなければならないので、その対策と準備で忙しい。
 今までは学校が終わり次第すぐに帰宅していたが、当番の日以外でも保健室にいるようにした。養護教諭が気さくで話し易いことや、また、別のクラス、他学年の生徒とコミュニケーションが取れるのが良かった。3年生の先輩からは受験情報を教えてもらえるので大変お得だ。來未は両親が研究職についているだけあって難関大学志望だ。時々分からない数学の問題も先輩から教えてもらっている。
 また、來未は保健室独特の消毒液のにおいも好きだったので、なおさら居心地のいい場所だった。
 放課後に保健室にいると、時々龍や加藤風子がやってくる。龍は部活動中に負傷して手当てのためにやってくる。最近は嬉々として怪我をしてやってきているような気がするが、龍は厳しい練習もなんのその毎日楽しそうに部活をしている。
 加藤風子も部活の合間を縫って保健室にやってくる。目的は來未とお話しするためだ。風子が来たときはいつも保健室のバルコニーで、外の様子を眺めながらお喋りをする。最近は新しく入ってきたマネージャーの1年生の育成に手を焼いているらしく、なかなか大変そうだ。だが、打倒秀麗学園を志す加藤風子の心を屈するものではないので、彼女は常に情熱的にマネージャー業に勤しんでる。
 ある時、來未は加藤風子にずっと秘密にしてきた事実を打ち明けた。
 秘密というまでもないのだが、來未は自分と明吉が知り合いであるということを、加藤風子にずっと話せずにいた。
 加藤風子は「えー!うそでしょ、マジで?」と心底驚いていた。
「來未、榎本明吉と知り合いだったの?すごいびっくり!來未ちゃん、ずっと福井にいて、最近引っ越してきたんでしょ?」
「うん。お兄さんが、同じアパートに住んでるんだ。それで時々会うんだ。」
「そうなんだ、榎本明吉にはお兄さんがいるんだ。」
 と、風子は復唱するように呟くと、唐突に何かを閃いた。
「來未、そしたらお兄さんから榎本明吉の弱点聞いてきてよ。」
「え、う、うん。分かった。聞いてくるよ。」
 明吉の弱点を知ったところで、北澤高校が榎本明吉を攻略できるのかどうかは分からないが、風子があまりにも真剣なので來未は協力することに決めた。
 それから5分くらい話を続けると、風子は「長居しちゃった」と言って、野球部が練習しているグラウンドへと走って戻って行く。來未は、サッカー部の集団を見つけると、龍の姿を探す。今日も元気にやってるかな。まだ1年生の龍は他の1年生に交じって基礎練習に励んでいるが、最近はビブスを着て試合形式のこともやっているようだ。レギュラーはとれるだろうか。
 來未は保健室へ戻ると、養護教諭から指示されていた保健関係の掲示物の作成の続きを始めた。
 そういえば、今週の日曜日に來未は明吉と会う予定だ。ムサシの散歩がてら、この前明吉が食べそびれた來未のクッキーを渡しに河川敷へ向かう。その時に本人から弱点を聞き出せないだろうか、と來未は考えた。
 
作品名:りんごの情事 作家名:藍澤 昴