りんごの情事
帰り道、來未は仁田村にメールを送った。まさか自分がマネージャーの手伝いに行った敵チームに明吉がいたなんて、だれが予想していただろう。とにかく誰かにこの胸の内を伝えたかった。
すると、仁田村からはこのようなメールが返って来た。
送信者:仁田村えりさん
タイトル:知ってた:)
本文:実はニタは知ってたよー♪さっき明吉からメールが来て、くーちゃんと同じような内容だった。あ、そうだ、なんか、明吉こっちに来るらしいよ。で、龍んちでマリカやろうって。くーちゃんも終わったなら来なよ。多分、明吉も喜ぶと思う(笑)
マネージャーの手伝いで、少々疲れた來未であったが、めったに姿を見せない明吉の来訪だ。それに今日の試合のこともある。マリカもそんなに得意ではなかったけど、來未は龍の部屋に行ってみようと思った。仁田村に「それでは、おじゃまします」と返信した。
「どうも、おじゃましまーす。」
來未は龍の部屋にやって来た。部屋には家主の龍と、明吉と仁田村と天花がいた。仁田村は來未が来ると、待ち構えてたかのように出迎えてくれたが、ちょうどバイトがあるということで、來未とは入れ替わりでいなくなった。
「やぁ、來未、久しぶり。といっても、さっき会ったばかりだけどな。」
爽やかな笑顔で出迎える明吉。試合中のあの真剣な表情が嘘のようだった。
「どうもお久しぶりです。今日は、どうしたんですか?」
「どうしたんですかって、こっちのセリフだよ。來未、今日はどうしたんだよ。まさかあんなところで会うなんて思いもしなかったよ。」
「あぁ、えっと、友達に誘われて、マネージャーのお手伝いをしてたんです。秀麗学園と対戦だって聞いてはいたんだけど、まさか明吉さんがいたとは、思わなかったです」
「え、ってこの前龍と二人で俺のところに来たじゃん。」
「学校名までは覚えてなくて。」
「へぇ、でも、もう覚えた?」
「はい…。」
獅子の投球にに打ち負かされたんだ。忘れるはずがない。
「來未ちゃん、これからマネージャー、続けるの?」
天花が会話に入って来た。
「うーん、友達には悪いけど、続けはしないかな。ちょっと大変そう。」
「なら、サッカー部のマネージャーはどうっすか?」
結局、龍は中学の時から続けていたサッカーを続けることにしたようだ。この前、外周を走っていた龍を來未は教室の窓から見かけた。
「多分、私はマネージャーってお仕事自体が向いてないのかもしれない。多分やらないよ。今回も、友達から誘われただけで、新入生が入ってくるまでの期間限定のお手伝いだったし。でも、龍君の姿は見てたよ」
「え、まじすか?じゃぁ頑張らないと!」
意気込む龍。
「いいねぇ、同じ学校ってのは。俺も、來未が見てくれたら、今日みたいにめっちゃ頑張れるのになぁ。」
「明吉さん、今日本当に容赦なかったです。一応明吉さんは敵だったから、すごい複雑な気持ちになりましたよ。」
「ははは。じゃぁ、今度は、ちゃんと俺を応援するために来てくれよな。そしたら、多分、惚れると思う」
「明吉、言うねぇ」
と、実はこの中で一番の年長者である、天花が言った。
「あ、そうだ、明吉、知ってた?來未ちゃんねぇ、携帯買ったんだよ。」
「そーなんすよ、やっと、携帯買って、俺も來未さんとメル友っす。」
自慢げに語る龍を他所に、明吉は目を輝かせて
「まじか!じゃぁ、來未、俺ともメアドを交換してくれ!」
と言って、鞄の中をあさり、自分の携帯電話を取り出した。野球に関するストラップが、2、3個着いている。
赤外線でお互いのメアドを交換する。最初は赤外線の使い方もさっぱり分からなかった來未だが、色んな人のおかげで、携帯の扱いも相当慣れたものだった。
それから、4人は楽しくマリカを楽しんだ。ごはんの時間になると、明吉は寮食があるからということで、独り寮へと帰宅した。
天花はほのぼのとした笑顔を浮かべて來未を見た。
「いやぁ、明吉、來未ちゃんのこと、すっごく好きなんだろうねぇ。あんまりりんご荘に帰って来ないのに、帰ってくるなんて、本当に珍しいんだから。ね、龍。」
「むむう。そうっすねぇ…。そうなると俺的にはあんまり帰って来ては欲しくないっすけど…。」
ぼそっと呟く龍。
「そんな、冗談でしょう。明吉さんは、なんだか白球が恋人って感じがする。」
來未はからから笑うのだった。続けて龍も笑う。明吉は明るくて、人懐こい性格なだけなのだ、と來未は思っていた。
「ボールは友達!ってやつっすね!」
「ふふふ、そうそう。」
からから笑う來未と龍。そんな二人を、天花はニコニコ眺めるのだった。