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りんごの情事

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 さて、時は過ぎて、日曜日。
 日曜日だというのに、來未は学校に来ていた。前に風子に誘われた、野球部のマネージャーの手伝いだ。
 マネージャー業とは意外と肉体労働だった。とはいえ、加藤風子が全てを仕切ってくれるので、來未はそれに従えばいい。重い荷物だって、スタメン落ちの部員が引き受けてくれる。
 軽い荷物を運びながら、來未は、今日の練習相手である秀麗学園の部員達が、グラウンドにやってくるのを見つめた。
 しばらくすると、秀麗学園の監督とキャプテンが、挨拶にやってきた。そこで、來未はびっくりした。
 なぜなら、相手方のキャプテンとしてやってきたのは、來未が知ってる、あの人物。そう、榎本明吉だったからだ。
 どうやらお互いびっくりして、認識し合った瞬間は、「なんでここにいるの?」という表情になって、声を交わす間もなかった。來未は、明吉が野球部だということは知っていたが、秀麗学園の野球部だということまでは知らなかった。最近越して来たばかりだから、周辺地域にうというのは当然だ。
 前に、龍と一緒に明吉の練習風景も見に行ったが、高校名まで把握はしなかった。ちょっと歩いていける距離に、明吉の通う高校があるんだな、と感じた程度だった。
 相手チームの部員と談笑するというような時間もなかったので、來未は明吉と言葉を交わすことなく、そのまま練習試合が始まった。補欠部員と一緒に声を出して応援していたが、敵である明吉の姿はとても気になるものだった。
 明吉の試合を見に行く約束はしていたが、まさかこんな形で実現するとは…。
 ちなみに、明吉のポジションは、ピッチャーだった。一回表のこちらの攻撃の際、マウンドに立った明吉は、ちらりと來未を見た。帽子のつばで、ほとんど表情は隠れていたが、わずかに見えた口元だけは、一瞬、にやりと笑ったようだった。
 まるで獅子のような投球だった。
 明吉は軽々と三者凡退に抑える。
 凄い!と來未は思うのだが、明吉は敵方だ。味方に勝って貰えないと、それはそれでもどかしい。
 しかし、明吉は容赦なかった。勢い猛る獅子の投球は止まることがなかった。結局、彼は完封に抑えてしまったのだ。試合が終了した後のチームの落胆ぶりと言ったら。わざわざ北澤高校がお招きして試合を行ったというのに、全く手も足も出せずに終わってしまったのだ。
 風子曰く
「くう、榎本明吉、全部あの人のせいだ。昨年よりも全然パワーアップしてる。てゆーか、ここまで強くなってるとは思わなかった。こんなに打ちのめされるなんて、ああもう!」
とのこと。その日は、來未は風子に榎本明吉と自分が知り合いであることを打ち明けることは出来なかった。

作品名:りんごの情事 作家名:藍澤 昴