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りんごの情事

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 二週間後の土曜日。
 來未は、ついに携帯電話を手に入れた。
「くーちゃん、やったね!」
 『困った時の昔野頼み』これは、仁田村の弁だ。昔野は、Eメールを使って、來未の両親と連絡をとり、來未が携帯購入に必要な書類一式を難なく揃えることに成功した。あの時手に入れることが出来なかった携帯電話。仁田村と來未は駅前の喫茶店に入って、携帯電話の設定を行うことにした。
 駅前という上等な土地にあるものの、通りすがりの人が絶対に立ち止まらない位にひっそりと佇む喫茶店のドアを開く。カランコロンと透き通ったチャイムの音が鳴る。
「にたちゃん、久しぶりだね。大学の方、忙しかったのかい?」
 30代位に見える男性の店主がカウンターの向こうから声をかけて来た。仁田村はかなり慣れ親しんだ様子で
「ちーっす。まぁ、そこそこね。テーブル席借りるね。」
と言って來未と一緒にテーブル席に座った。
 仁田村のアドバイスの元、スマートフォンの操作方法やメールアドレスの設定を行ったり、メールの打ち方、電話のかけ方などをレクチャーしてもらった。
 早速、仁田村にメールを送ってみると、自分の携帯電話を見てメールの確認をした仁田村は、ぷっと吹き出してから、げらげら笑い始めた。來未が不思議に思って、仁田村を見つめると、、仁田村は目じりに涙を浮かべながら、自身の携帯電話を見せて来た。

送信者:栗山來未
タイトル:ありがとうございませ
本文:けいたいでんわこうにゆうをてつだつてくださりありがとうございますこれからもいろいろよろしくおねがいします

 自分の送信した文章を見て、來未も思わず吹き出してしまった。まるで小学生が描いた文章みたいだ。文章を打っている時は必死すぎて、誤字に気を回す余裕がなかった。
「まぁ、初めてメール打つとこうなるよ。はは、くーちゃんまじ可愛い。あ、そうだ、りんご荘のみんなにも、くーちゃんが携帯買ったこと、教えてあげよう。」
 めまぐるしいスピードで指を動かし、仁田村はあっという間にメールを送信する。
「ニタさん、ちっちゃい「つ」とか、「や」とかどうやれば出来るんですか?」
「はいはい、ニタおねえさんが、メールのやり方も無償で教えてあげよう。これでくーちゃんもデコメや絵文字も使えるメールマスターになれるよ!なんなら、モテメールの送り方も教えてあげよう!」
 それから、仁田村によるスマートフォンの使い方講座は4時間ほど続いた。

作品名:りんごの情事 作家名:藍澤 昴