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りんごの情事

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 翌日、午前中は通常授業があった。しかし、午後からは入学式が開催されるため、在校生は入学式の準備に駆り出された。來未達の班は1年3組の教室の清掃を担当している。同じグループには加藤風子もいた。
 そんな最中に、唐突に加藤風子が
「來未ちゃん、部活入る予定はないの?」
と來未に尋ねてきた。來未自身は別に特にやりたいこともないので、部活に入る云々に関しては、特に考えてはいなかった。そのため適当に
「うーん、どうしようかな。」
と、はぐらかしてみたところ、
「じゃぁ、野球部のマネージャーやってみない?」
と、現野球部マネージャーの風子からの意外な提案を受けた。
「マネージャー?」
 來未は予想外の提案に、思わず風子の言葉を繰り返してしまった。
「うん。まぁ、來未ちゃんにその気がないのに無理に誘うのも悪いかな、っては思うけど、とりあえず、新入生で新しいマネージャーが入ってくるまでは、ちょっと人手不足でさ。もし、來未ちゃんが良ければ、新しいマネージャーが入ってくるまで、お手伝いしてもらえると嬉しいな、って。それで、続けたいと思ったら、一緒にやってもらっても構わないんだけどね」
「ううん、マネージャーかぁ。ちょっと大変そうだね。」
 そもそも來未は野球のルールを知らない。サッカーのルールなら知っているが、そんな状態でマネージャーなんて務まるのだろうか。
「あ、ルール分からなくても、私が教えるから大丈夫だよ。」
 加藤風子は、黒板をぬれぞうきんでふきながら、笑顔で言った。
 まぁ、教えてもらえるなら、特に心配はないか。と來未は、机の列と並びを整えながら思った。東京に来てからの新たな出会いの連続が來未を少々好奇心旺盛にさせていた。
「とりあえず、今度の練習試合をめどに、ちょっと手伝って貰いたいだけなんだけどね。やっぱり一人じゃ大変でさ。」
「今度の試合って、再来週にあるっていうやつ?」
「うん、そう。」
 秀麗学園という野球の名門校だと昨日風子が言っていたのを來未は思いだした。
「分かった。じゃぁ、やってみようかな」
「やった!ありがとう!」
 風子は親指をぐっと突き出し、喜んだ。

 その日、準備が終わると、在校生は皆帰宅させられた。
 帰り道、來未は龍の高校への来訪を心待ちにした。昨日のあの様子だったが、仁田村と準備の確認を行ったので、多分致命的なミスをして来ることはないであろう。みんなから愛される末っ子キャラの役得だ。
 來未がりんご荘に辿りついた時は、りんご荘の皆が、龍を送り出そうとしている最中だった。
 新しい一張羅に身を包んだ龍は、りんご荘の前で写真撮影会を行っている。
 來未が近寄ると、なぜか來未とのツーショットも必要だと言われ、來未も龍と写真を撮った。
「ふふふ。良かった。龍君が入学式に行く前の姿を見れて。入学式、しっかり頑張ってきてね。」
 写真を撮り終えて、來未が言った。
「は、はい。」
 龍は思わず顔が綻んだ。
 その後、保護者代わりということで、仁田村と昔野が龍に同伴していった。
 フォーマルな服装とは相反する二人だが、二人ともかっちりとしたスーツに身を包み、本当の親のようにして、龍と一緒に入学式へ向かった。
 仁田村はともかくとして、昔野はスーツを着ても溢れ出る胡散臭さを隠すことは出来ないらしい。と、來未は感じた。

作品名:りんごの情事 作家名:藍澤 昴