りんごの情事
放課後。新しい友人たちは皆、それぞれの部活へと向かった。
どこの部活にも所属していない來未は、特にやることもないので、独り寂しく帰りの道を辿った。
春の道を歩きながら、來未はため息を吐く。
思い出すのは、新しい友人たちとの会話。彼女達は、皆、來未が携帯電話を持っていないことに驚いていた。「今時珍しい!」「なんで持ってないの?」「不便じゃない?」
その通り、不便だ。地元の友人達も皆、來未が携帯電話を持っていないことに驚きを隠せないでいた。色々連絡をするのにも、大変である。携帯電話さえあれば、メールなりを用いて連絡なんて簡単に取れてしまうだろうに。
正直なところ、來未も携帯電話が欲しいのだが、買えないのだ。
両親に一度せがんだことがあったのだが、「あぁ、あとでね」と言われて、そのまま両親と2か月ほど音信不通になってしまった。次の時に会った時に、「携帯電話は?」と聞いてみたが、「ああ、ごめん、忘れてた。ちょっと待ってね。」と言われて、どのくらいのちょっとを待っただろう。
携帯の事案については、両親にずっと先延ばしにされている。
しょんぼりしながら、來未は、りんご荘へ戻って来た。一応両親に電話を入れて見るが、出なかった。ため息をつきながら、夕飯の食材を買いに外を出る。
階段を降りたところで、大きな鞄を持った仁田村に出会った。
「あ、くーちゃん、学校終わったの?」
「はい。今日は始業式だったので、早く帰れました。」
「ふうん、そうなんだ。これからどこ行くの?」
「駅前の商店街にご飯の買い出しに。」
「あ、じゃぁ、ニタも行く。ちょっと荷物おいていくから、待ってて。」
仁田村が自分の部屋に大きな荷物を置いて出てくるのを待ってから、二人は駅前商店街へ向かった。