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りんごの情事

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 その日、來未は、今更ではあるが、各部屋に引越しのあいさつをして回った。昨日の仁田村の家での食事会で、自己紹介は終えていたが、両親が用意した贈り物を、無駄にすることは出来なかったので、配って回った。
 仁田村、天花は在宅していたが、一真はいなかった。当前龍もいたが、202号室のハイジはいなかった。101号室の住人もいない。
 101号室の住人以外は夜になったら帰宅しており、なんとか贈り物を渡すことが出来た。
 就寝前、來未は、手紙を書いていた。引っ越して来てから、ずっと電話をしようと思っていたが、どうにも勇気が出なかった。先程も電話をしようと受話器を取ったのだが、やはり、かけられなかった。
 相手に想いを伝える手段は電話だけではないので、來未は電話連絡を諦め、手紙にその気持ちをしたためることにした。手紙だって、気持ちを伝える立派なコミュニケーションツールである。


「大崎へ
おげんきですか?
多分誰かから聞いて知っていると思うけど、私は今、東京にいます。
急に今春から東京の高校に通うこととなり、皆にあいさつ出来ないままに引っ越すこととなってしまいました。
私自身、突然の引越しにびっくりしていて、最近ようやく心が落ち着いてきたところです。
大崎にも連絡できないままでいて、ごめんなさい。

今、私は東京にいるけど、この距離の中、私達の関係は上手くやっていけるかな。
福井から東京までは、新幹線を乗り継いで行けば3時間半くらいで着きます。
意外と遠くない距離にあるんです。
だから、それでも大崎が良いというなら、私は大崎の望むようにしたいです。
離れていても私は大崎が好きです。
すごく時間が空いてしまったんだけど、返事をくれたら嬉しいです。
手紙でもいいし、電話でも良いです。
大崎のことがずっと心残りでいます。
それでは、お元気で。

栗山來未」


作品名:りんごの情事 作家名:藍澤 昴