Last Message
おばあちゃんが、もう長くないと親戚から知らせを受けて
私は2歳の子供を旦那に預けて新幹線に飛び乗り
はじめて一人で生まれ育った町に帰った。
白い壁に青い屋根のその病院の1階の奥に
おばあちゃんの病室はあった。
窓はなく、天井の明かりも薄暗く、
まさに、これから死を迎えるためだけに
待機しているような、そんな居心地の悪い部屋だった。
「おばあちゃん、来たよ、美咲だよ」
介護をしてくれる人の休憩場所なのだろうか
ベッドの奥には、低めの仕切りで囲われた
畳のひかれたスペースがあり、そこから
笑顔の一つも見せない中年の女性がぬっと起き上がって
軽く会釈をしただけで、また座り込み本を読み始めた。
私は、もうほとんど意識のないおばあちゃんの手を握り
硬く、小さくなった頭に残った薄い柔らかい髪の毛を
撫で、何度も、何度も「おばあちゃん」と呼びかけ
そして、おばあちゃんの最後の言葉を聞いた。
私への深い深いメッセージ。
「あんたをおいてしねないよ」
おばあちゃんには、もう二度と生きて
会うことはないんだと、覚悟を決めて
第一関節から外側に曲がってしまった左の小指を
最後に優しく撫でて、病室を後にした。
長い長い一日だった。
作品名:Last Message 作家名:momo