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土曜日、大輝はただボーっとして過ごしていた。何度かケータイが鳴った気もしたが見る気にはなれなかった。その日の大輝はただひたすら寝て起き手を繰り返していた。大輝にとってその時間が気通だった。ただ日曜だけは一日中バイトだったので救われた。寂しさに押しつぶされる事がないからだ。ただ月曜日からの学校は大輝にとって地獄だった。面白みのない授業を受け、バイトへ向かう、繰り返しの日々だ。桜花に悪気がない事を大輝は理解していたが、それでも激しい虚無感が大輝を襲った。
 朝、登校し、いつものように自分の席でボーっとしていると、大輝の親友が駆け寄ってきた。
「大輝ー。お前の彼女って××高の神埼桜花ちゃんだよなー?」
「そうだけど。」
「体育科?」
「体育科。ちなみに陸部だ。」
親友は「うーん・・・。」と項垂れた。
「昨日と一昨日、俺のバイト先に来たっぽいんだけど・・・。ほら、俺のバイト先って、俺の地元のファミレスじゃん?そこに俺の中学の時の先輩と手を繋いで来たっぽいんだが・・・。別れたん?」
「いやいやいや、別れてねーし!てかそれ人違いじゃねー?」
「ん・・・それならいいんだ。悪いな!」
親友はそう言って自分の席へ戻った。大輝は笑っていたものの、手のひらには大量に変な汗が溢れる。
 一昨日といえば、会うのを断られた日だ。その日に自分の知らない時に、自分の知らない場所で、自分の知らない男と、しかも手を繋いで歩いていたと考えると。大輝はとてもやるせない気持ちになった。友達から聞かされただけで大輝自身が見た訳ではない。本当に勘違いかもしれない。そう思うと桜花を信じなくちゃいけない、信じたい。でも信じる事が出来ない。大輝の思考は一日中、その繰り返しだった。
 大輝はその日、桜花に会いに行く事を決意した。その日の夕方からあったバイトは初めて欠勤来た。桜花にはアポなしで会いに行くことにした。桜花の意表を突くためではない。今の大輝にはそこまで考えが及ばなかったのだ。それほど、大輝の頭の中は混乱していた。
 授業が一通り終わり、大輝は桜花に会いに行くためにバスや電車を乗り継いだ。大輝の学校から桜花の学校までは20~30分程度。大輝にとってはその時間さえも、とても長く感じ、もどかしかった。とにかく、早く桜花に会って事実を確かめたかった。
 桜花の学校へは大輝が思っていたよりも早く着いた。外からグラウンドを覗いてみると、グラウンドにいたのは、野球部、ソフトボール部、サッカー部、テニス部、ジョギングをしているバスケ部・・・陸上部の姿はどうも見当たらなかった。
「うそ・・・だよな?」
思わず大輝の口から言葉が漏れる。
 気が付くと大輝は親友のバイト先にいた。偶然、親友がホールで働いていたので、親友に席を案内してもらうことにした。親友は何かを察したのか、業務的な事以外は何も言わなかった。
 大輝はただずっとコーヒーを飲んでいた。その間、朝とはまた違う、やるせない気持ちに心を掻き乱されていた。
 ファミレスで2時間半、時計は19時前を指している。大輝は、次の日の事も考えて席を立つことにした。
 結局、桜花に事実を確かめる事が出来ず、悶々とした時間を過ごしただけになってしまった。会計を済まし、店を出ようと扉をあけると、そこには手を繋いだ桜花と涼の姿があった。
 ただタイミングが悪かったというべきなのだろうか。何も知らなければ、まだ修復できる余地はあったのかもしれない。何も知らなければ、僅かな希望にも大輝は縋れたのかもしれない。
「桜花・・?何やってんの・・・?」
「・・・・・・・・・っ。ごめん・・・なさい・・。」
桜花の目から涙が溢れ出る。
「土曜も日曜もその男と居たの、本当だったみたいだな。友達から聞いたよ。」
「違うの!ねぇ、いや・・お願い、聞いて・・大輝!」
「・・・聞きたくなんかない!!」
そこで初めて大輝は声を荒げた。
「俺は土曜、日曜と、桜花がここにいた事を知らない。・・・今日だってそうだ。桜花の部活が休みだった事を知らない。・・・・・・俺は、桜花が髪を切った事さえも知らなかった。」
 大輝は耐えられず泣いた。自分が情けなくて、惨めで、桜花の彼氏なのに、桜花が髪を切った事さえも知らなかった。更に、自分の大好きな桜花を泣かせて、ただただ悔しくて、悲しかった。
「お前、小さい男だな。桜花がどれだけ寂しかったか。どんな思いでいたか。何も知らずに一方的に勝手言ってんじゃねーよ。女々しいな。怒るなら俺に怒れば?」
涼は桜花が泣いている事に耐えられず、そう言って大輝を突き飛ばした。大輝は不意に突き飛ばされた衝撃で尻餅をつくが、すぐに立ち上がって涼の胸倉に掴みかかった。今すぐにでも殴りかかりそうなその状況で、桜花が2人に割って入った。
「やめてよ!やめて!!」
「お前はどいてろよ。こいつが全ての元凶なんだろ??」
「違うったら!!」
桜花は大輝を涼から引き剥がした。
「涼先輩は、大輝に会えなくて落ち込んでる私を励ましてくれて・・・傍にいてくれて・・・。・・・涼先輩は悪くない。涼先輩は私に優しくしてくれただけだから・・殴ったりなんかしないで!!!」
「・・・会えなくて寂しいから浮気したのか・・・?」
「え・・・?浮気・・・?浮気なんて・・・」
大輝の問いに桜花は目を丸くした。
「これ、誰がどう見ても浮気だろ?彼氏以外の男と手を繋いで歩いて・・・浮気以外のなんだって言うんだよ。」
大輝はたじろぐ桜花を問い詰めた。
「桜花。もう面倒だから、この際ハッキリしよう。俺とこの男、どっちが彼氏なわけ?」
涼も静かに桜花を問い詰めた。
「私は・・・・・・。」
作品名:無題 作家名:八条