ヘリテイジ・セイヴァ―ズ ノベルゲームシナリオVer.
【乙愛】「私は未来で、あの悪夢のような未来を変えることを期待され、託されているんだよ」
【光大】「……」
乙愛はさらに一歩前へと踏み出していく。
【乙愛】「それが、私自身の行動に直結しているのだ。
【乙愛】「五年前、私自身、未来では逃げてばかりで、精神的にも幼く、臆病者だった。ただ、政府に捨てられた現実を否定し、絶望していた」
【乙愛】「だけど――」
※横ワイプ(さっと暗くなる)
■回想 回想 未来の宮島(2065年) 研究施設 秘密の研究施設 智達の部屋のドアからこっそり研究者たちを見る乙愛(15歳) 明るい
※このシーンはCGで表現するため、立ち絵を表示しない
※横ワイプ(さっと表示する)
【智達】「おい、設計図とは違うぞ。どういうことだ」
【研究者(男) A】「すいません!」
【研究者(男) B】「所長! 仕様変更、終わりました」
【智達】「分かった。さっそく確認しよう」
【乙愛(15歳)】「……」
※横ワイプ(さっと暗くなる)
■空間の狭間(インタスティス) 背中で語る乙愛 青紫色の空間
※このシーンはCGで表現するため、立ち絵を表示しない
※横ワイプ(さっと表示する)
【乙愛】「父さんを始めとする研究者たち全員、諦めたりはしなかった」
【乙愛】「父さんは、ジャームによる体内汚染で病死した母さんにショックを受けていたのに、それでも必死になってた」
【乙愛】「そのとき、私は知ったのだ」
【乙愛】「立ち止まっては、何も変わらないということを……!」
【光大】「……」
【乙愛】「現実を受け入れて前に進むことにより、運命は動き、未来は変わっていく」
【乙愛】「立ち止まることは、自分だけその時間(とき)に取り残されるだけだ。人と歩む時間が違うのって、怖くないか?」
【光大】「こわ……い?」
【乙愛】「ああ」
乙愛は俺を一瞥し、薄く微笑む。
【乙愛】「それこそ、『ひとりになる』ってことだからな」
彼女は再び火奄を見つめる。
【乙愛】「だから私は……前へと進む!」
乙愛は痛みを感じられないような走りで、火奄に挑む。
【光大】「……」
無謀にもほどがあると思う。
絶対に誰もが、「バッカじゃないの!?」、とあざ笑うはず。
だけど……。
俺には止める権利はない。
俺は今まで、乙愛のように、困難に立ち向かっていただろうか……。
ずっと、ずっと、他人ばかりを責めていた。自分では何もせずに。
だって、俺たちではなく、大人たちが社会や仕組みを作ってきたから。
一番の原因はそれだと思っていた。大人たちがやるべきだと。
しかし、彼女は現実を壊すために立ち向かっている。宮島が炎で覆われるという現実から。
それを俺は、できるのか……?
【光大】「!」
※フェードアウト(さっと白い画面になる)
■回想 一年前の宮島(2029年) 病院 ベッドの中で寝ている光大の祖父――菅原善成(すがわら よしなり)とのやり取り 夏 昼
※このシーンはCGで表現するため、立ち絵を表示しない
※フェードイン(白い画面の状態から、さっと表示)
【善成】「光大よ。他人に流されず、自分の信ずる道を進むのじゃ。その中で、時にはつらいこと、苦しいことが、おまえに待ち受けるかもしれん」
【善成】「じゃがな、その先を進んだ先にはきっと、おまえにとって明るい幸せが待っておる」
【光大】「じいちゃん……でも、俺、夢とか、何も……」
【善成】「大丈夫じゃ。持っていなくても、まずはやれることからやればいいんじゃ。
【善成】「自分で歩いて、自分の答えを導くのじゃ。そうすればきっと、未来は広がる」
【善成】「光大の手で、未来を変えるのじゃ。よいな」
【善成】「おまえならできる。自分を信じるのじゃ」
※フェードアウト(さっと白い画面になる。)
■空間の狭間(インタスティス) ボロボロの全景 青紫色の空間
※フェードイン(白い画面の状態から、さっと表示)
【光大】「……」
そうか。
そうだったんだ。
花楓と葦貴がいる。その空気に満足していた自分がいた。それだけで居心地が良かった。
だけど二人は、『自分』というものをしっかり持っている。それが『夢』という形になった。
俺は、そんな二人が羨ましく、満足していた空気が失われていくことが怖かった。だから焦っていた。
その恐怖のあまり、『夢』を持たないことに校長の言葉に苛立ち、政府の、痛みを伴う『夢』への創造について――他人に苛立っていた。
……。
俺は、何をしたんだ? 自分自身の可能性を信じて、何かやっていたか?
――行動していない。それが、重くのしかかった。
乙愛に対してもそうではないのか。火奄を見た瞬間、勝ち目がないと思い込んでばかりで、協力せず、戦わずに立ち止まって。
……何も、何もやってないじゃないか!
※ボロボロの乙愛、苦しい
【乙愛】「くうう……」
※ボロボロの乙愛の立ち絵を表示しない
足の疲労と身体のダメージで、乙愛は再び膝をつく。
■空間の狭間(インタスティス) 膝をつく乙愛 青紫色の空間
※このシーンはCGで表現するため、立ち絵を表示しない
【乙愛】「ははは……どうやら、限界みたいだな……コータの言う通り、逃げることも考えないといけなかったな。無鉄砲過ぎたみたいだ」
身体中が痛々しくて仕方ないのに、乙愛は気丈な振る舞いで、苦笑を浮かべる。
その表情が、何もできなかった俺の胸に突き刺さる。
【光大】「そんなのいいんだよ! ごめん、俺がサポートすれば」
【乙愛】「いいさ。そんなこと」
【光大】「違うんだ! 俺はずっと、火奄から逃げたくてしょうがなかった」
【光大】「でも、立ち向かう乙愛をほっておくことはできなくて。でも、どうすればいいのか分からなくて。ずっと、迷ってばっかりで……自信がなくて……臆病で……」
【乙愛】「コータ」
【光大】「ごめん」
【火奄】「ガアアアアアアッ!!」
火奄が咆哮する。
くそっ! 何とかこいつの暴走を止められないのかよ!
【火奄】「こうなったら」
そうだ。何のための竹刀なんだ。
今こそ自分がやらないと!
※横ワイプ(さっと暗くなる)
■空間の狭間(インタスティス) 火奄に向かって竹刀を投げる 青紫色の空間
※このシーンはCGで表現するため、立ち絵を表示しない
※横ワイプ(さっと表示)
【光大】「これでも、くらえー!」
俺は火奄に向かって勢いよく竹刀を投げた。
だが。
※クロスフェード
■空間の狭間(インタスティス) 竹刀が火奄をすり抜ける 青紫色の空間
※このシーンはCGで表現するため、立ち絵を表示しない
【光大】「!?」
火奄は3D映像を見ているかのようにすり抜け、カラン、と落ちてしまった。
【光大】「な、なんでだよ!?」
作品名:ヘリテイジ・セイヴァ―ズ ノベルゲームシナリオVer. 作家名:永山あゆむ