ヘリテイジ・セイヴァ―ズ ノベルゲームシナリオVer.
『夢』――俺の嫌いな言葉だ。
自分のことをバカにされているみたいで、実に不愉快だからだ。
この学校の大人たちはみな、『夢を持て』と言う。
『総合』という名がついている通り、この学校には普通の進学校で教えられない、パソコン、技術、家庭、デザイン、福祉などたくさんの専門科目がある。
そういった様々な科目を通して、『夢』というものを学生たちに見つけ、それに向かって支援するというコンセプトのもと、創立したのだ。
それにより、花楓は『パティシエ』、葦貴は『ゲームクリエイター』になるという夢を見つけた。
しかし。
【光大】「……」
……中には俺みたいに見つけられないヤツもいる。成績だけがとりえの、ただの落ちこぼれが。
どうしろっていうんだ。
※立ち絵を表示しない。
【校長】「この時代を生きていくためには『夢』は必要です」
【校長】「日本は今、それがないと社会に置き去りにされる時代になっております。やりたいことを見つけないと、暗い人生を送ってしまいますよ」
だったら、何とかしてくれよと言いたい。
『夢』がないと死んでしまいますよ、と言っているようなもんじゃないか。
【光大】(くそ、なんだよ、『夢』って……)
気持ちを押し殺しながら、校長を始めとした大人たちが突きつけた『夢』の必要性を最後まで苦々しく聞くのだった。
※フェードアウト
■宮島 澄み渡る真夏の青空 夏 昼
※フェードイン
放課後。
廊下に立たされた羞恥と大人(校長)への嫌悪を、剣道の部活でストレスを発散した俺は、靴を履きかえ、学校の校舎を出た。
青空が見えるなかで帰宅するのは久しぶりだ。
剣道部は夜遅くまで練習をしている。
しかし今日は特別、明日から夏休みが始まるからであろうか、監督が早めに練習を切り上げてくれた。
去年もそうだったが、地獄の特訓前に用意したお情けなのかもしれない。
※横ワイプ(さっと暗くなる)
■宮島 宮島総合文化高校 駐輪場 夏 昼
※横ワイプ(さっと表示)
【光大】「えーと、どこに置いたっけ?」
遅刻ギリギリだったもんなあ。記憶する暇もなかった。
しかたないので、端から探していく。
【光大】「番号は確か、277番だったな」
後ろタイヤについている学校認定のステッカーの番号を頼りに奥から探す。
左端から真ん中へと辿っていく。
【光大】「おっ、あった」
ビンゴ!
ポケットにある鍵を取り出そうとするが。
【光大】「うおっと!」
※鍵が落ちる音
手が滑って後ろに転がり落ちてしまった。
溝に落ちなかったのが幸いだ。
取りに行こうとすると、
※すぐにCGが切り替わる
■宮島 宮島総合文化高校 花楓と葦貴 夏 昼
※このシーンはCGで表現するため、立ち絵を表示しない
【花楓】「こうちゃん」
カエが拾ってくれた。隣によっしーがいる。
そういえば、帰りによく会うってよっしーが言ってたな。
※すぐにCGが切り替わる
■宮島 宮島総合文化高校 駐輪場 夏 昼
【光大】「サンキュー」
※花楓の立ち絵を表示。微笑む
※葦貴の立ち絵を表示。通常
【葦貴】「今日は早いんだね」
【光大】「まあな。地獄の練習前にしっかり休んどけってことさ」
幼馴染みと会話しながら、俺は自転車のところへ向かう。
※花楓の立ち絵を表示しない
※葦貴、苦笑
【葦貴】「そっか。コウのとこの部活って、監督が厳しいもんね」
【光大】「そんなところだ。まあ、楽しいからいいけど」
この時だけは本当に夢中になれる。
試合の大一番で勝った時は、スカッとするし。
その爽快感を求めていたおかげで、昨年は全国大会まで行けたのかもしれない。
※葦貴、苦笑
【葦貴】「そうだよね。コウは、剣道だけが取り柄だもんね」
【光大】「だけは、余計だ」
勉強も少しはできるっつーの。常に10位以内のカエほどではないけど。
俺とよっしーは自転車の鍵を開け、俺たちを待っている花楓のところへと向かった。
※横ワイプ(さっと暗くなる)
■宮島 宮島総合文化高校 校門までの道 夏 昼
※横ワイプ(さっと表示)
部活が昼に終わるように、幼馴染み三人とこうして帰るのもずいぶんと久しぶりだ。
※葦貴と花楓を表示
やっぱり、ここが俺の居場所なんだなと思う。
会話するのも楽しいし、二人と一緒にいるだけで、気楽になれる。
【光大】「それにしても……今日は散々な目にあったな……」
※葦貴、苦笑
【葦貴】「ははは。お疲れだったね」
【光大】「おまえはいいよな、注意されただけで済むから」
※葦貴、微笑む
【葦貴】「ボクんとこの先生は、優しいからね。鬼の丸峰先生でなくてほんとによかったよ」
【光大】「お前がうらやましいぜ。俺なんか、俺なんかなあ……」
「もう忘れたい!」と言わんばかりの泣く素振りをして見せる。
※葦貴、苦笑
【葦貴】「ははは」
【光大】「うう……もう絶対にあいつの、雷という名の鐘を鳴らすのはやめよう」
※花楓、不満
【花楓】「まったくよ。幼馴染みとして恥ずかしいわよ」
花楓は額に手を当て、はあ、とため息を漏らす。
改めて見ると、この3人の中で一番しっかりしているのはカエだ。同い年なのに、俺たち二人の姉さんみたいな。誕生日を迎えるのも一番早いし。
※花楓、不満
【花楓】「これから進路を決める大事な時期に入るのよ。二人とも、もう少ししっかりしないとこの先……」
また始まった。花楓の小言が。真面目さゆえ、だけど。
ああーもう、丸峰の雷といい、校長のおめでたい話といい、これ以上、精神的なストレスはためたくないので、
【光大】「はいはい、堅苦しい話はまた今度な。それにしても……何か変じゃないか?」
強引に話題を変えてみる。
※葦貴、きょとん
【葦貴】「変って、どこが……」
【光大】「風だよ、風。普通、こんなに規則正しく吹いているか?」
周囲にいる学生もちらほらそれを話題にしている。
※風の音
ヒュッ、ヒュッ、ヒュ―――ン、ヒュッ、ヒュッ、ヒュ―――ン、と指揮者が操っているかのように吹いているのだ。
こんな奇怪なこと、現実にあるか?
そもそもファンタジーやありえない出来事は、二次元にしか存在しないのだ。俺はそう割り切っている。
だから俺の中では、「信じられないこと」ではあるんだけど。
※花楓、考え込む
【花楓】「うん。立ち止まってみたら、確かにリズムよく吹いているわね」
※葦貴、きょとん
【葦貴】「嵐でもくるのかな?」
【光大】「え? こんな青空なのに?」
作品名:ヘリテイジ・セイヴァ―ズ ノベルゲームシナリオVer. 作家名:永山あゆむ