夏の陽射し
幼馴染の宝物
「ただいまー」
「おかえり。どうだった?高校生活は楽しめそう?」
台所で昼ご飯の用意をしていた母親がひょっこり顔を出した。
「まあボチボチかな。」
そう言い残して、着替えるために自分の部屋へ向かった。「ん?」
ふと携帯を見ると着信があったようだった。
履歴を見てみると、実澪からだった。
「やばっ!30分も前じゃん!」
実澪に電話をかける。
『もしもーし』
「もしもし?ごめん!なんだった?」
『学校一緒に帰ろうと思ってさ。もう家着いちゃった?』
「うん。ごめん。」
『おい!すぐ謝るんじゃない!大した用事じゃないし!』
「ごめ・・・」
『こら!』
「ごめん!・・・おおう・・また言ってしまった。ハハ・・・」
『ハア、もういいわ・・・それより1時くらいに部屋に来れる?』
「ああ、分かった。大丈夫、行けるよ。」
『そんじゃ、また1時に!』
プチッ・・・
(1時か・・・まず飯食おう。)
俺は母の飯をわずか3分で平らげた。
「相変わらずお腹の中はブラックホールね」
「誰に似たのやら・・・」
「ほほぅ・・・晩ご飯はいらないのね?」
「いやっ!!それだけはご勘弁を!母上様!」
「それでよろしい」
・・・・鬼母だ・・・
1時ごろになったので、実澪の部屋へ向かった。
俺は矢神家には、インターホンを押さなくても入れる。それほど仲が良い証拠だ。
「お邪魔しまーす」
「ああ、カズ君。高校入学おめでとう!実澪と同じ高校なんて、おばちゃん嬉しいわ〜」
この人が実澪の母親。
俺の第2の母親みたいな人だ。実の親に相談できないことも、この人になら相談できる。
尊敬すべき人物だ。
「ハハハ!ありがとう、おばさん。・・実澪って帰ってます?」
「ええ、さっき帰ってきたところよ。あ、カズ君、実澪にご飯持って行ってくれない?」
「いいですよ。」
「ありがとう。・・・・はい、これね。よろしく。」
おばさんからお盆を渡された。
(池上家は、今日はトーストか。)
受け取ったお盆を持って、階段を上る。
実澪の部屋は二階の突き当たりの部屋だ。
コンコン
『ほへーい』
ガチャ
「なんつう返事の仕方だよ。」
「うるさいわ!」
実澪から強烈なツッコミが飛んでくる。
「グハッ」
さっき食べた昼飯がリバースしそうになるほどの威力・・・
そしてなんとか持っていたお盆はひっくり返さずにすんだ。
「うぅ・・・こ・・これ・・昼飯だとさ・・」
そう言い残して俺は絶命した。
「おぉーい、カズちゃ〜ん。なんで死んでるの〜」
「誰が殺したんだよ。」
「誰だっけ?」
「・・・・もういい・・」
もう来慣れた実澪の部屋。ベッドからカーテンからほぼ全てがピンクに統一された正に<ザ・女の子の部屋>である。
実澪の部屋はいい匂いがするので、俺は実澪の部屋が昔から大好きだった。
「友達出来た?」
不意に実澪から声をかけられた。
「トモダチ?ナニソレオイシイノ?」
ドスッ
「・・・・ごめんなさい・・・」
「朝会った、ちょっと顔の小さな子とはしゃべったの?」
「いや、そういえば話しかけるの忘れてたな・・・」
そう言ってふと顔をあげるとベッドの上に腰掛けている実澪と目があった。
ピンクのジャージに膝上20cmの短パンを来た実澪が今まで感じたことのないくらい美人に思えた。
「そういえばさ、この前言ってたスカウト断ったの?」
「ああ、あれね。断った。芸能界なんて興味ないもんね。」
実澪は数週間前に地元の商店街を俺と一緒に歩いていたときにスカウトに声をかけられていた。
実澪の返事に正直なところホッとしている自分に気づいた。
「もったいないけど、よかったわ。」
「え!?カズちゃん今なんて言った?」
「よかったなって。実澪が遠くに言ったら俺が世話できなくなっちゃうだろ。」
「はは。それもそうだね。うん。ちょっと嬉しいかも」
「そんな真面目に返されたら恥ずかしいだろうがッ」
俺は実澪に軽くヘッドロックをする。
「きゃーーー!いやーーー!ゴメンなさーい!!」
実澪はベッドにタップをする。
俺が腕を離そうとすると、実澪は手を握ってきた。
「どうしたんだ?今日の実澪おかしいぞ?あ、いつもか。」
「・・・・・・」
「あ、あれ?」
「・・・カズちゃん・・・クラスにかわいい子いた?」
「? まあ、ボチボチ」
「私より?」
「ッッどうしたんだよ。マジで。」
「あ・・あのね。私とカズちゃんってちっちゃいときから一緒にいたじゃん?だから最近まで気付かなかったんだけど・・・」
「何にだよ?」
「す・・・・・・好き・・・カズちゃんのことが好き・・・なんだよ。」
「っす?え?マジで?」
「やっぱおかしいよね。私・・・ごめん。」
「・・・・・いや・・・・・・・俺も・・・。」
「え?」
「俺は昔から実澪のことが大好きだったよッ!!」
ここが実澪の家だということも忘れてかなり大声で言ってしまった。
実澪の顔を見ると、大粒の涙が溢れていた。
「嬉しい・・ありがとう」
「泣くなよ。俺が泣かせたみたいだろ?実澪には泣き顔は似合わんって。」
そう言って実澪を軽く抱きしめた。
今まで小さい時から姉のように思って慕ってきたが、実澪からの告白で俺の気持ちが大きく変わったのは事実だ。
5分くらいだろうか。俺と実澪はずっと抱き合っていた。
実澪の心臓の音が聞こえる。実澪の心臓の動きが分かる。実澪の呼吸が聞こえる。
ああ、俺は実澪のことが好きなんだ。絶対に手放しちゃいけないんだ。
こんなに大切なもの、失いたくない・・・
「カズちゃん・・・大好きだよ・・・ずっと一緒にいたいよ・・・」
「うん、俺も。ずっと実澪といる。絶対に離れない。大好きだ・・・」
軽く唇が触れ合う。
目の前の実澪が目を開ける。
その時の実澪の笑った顔は死んでも忘れられない、大切な俺の宝物となった。