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パシフィスタ
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夏の陽射し

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しかし、一度傾いた流れはそう簡単に変えることはできなかった。


相手の打順は主軸に回る。


俺は切り替えたつもりだった。
だが、東高校の主軸も必死だった。

4番の野山さんには、粘りに粘られ、13球目をセンターにはじき返された。

これで3対1。


5番の加賀さんは初球を打たれレフトへの犠牲フライとなる。

3対2、なおもランナーは1,2塁。


1アウトはとったものの、ここまで全力で投げてきた俺のスタミナはもう残っていなかった。


カキーーーン


スタンドが湧く。

それは俺にとって絶望の声だった。


逆転サヨナラホームラン。


3年生の夏は終わった。
俺はマウンドで崩れるように手を付いた。
その目には涙が溢れていた。


スタンドでも、グラウンドでも、ベンチでも、3年生は涙を流し、1,2年生は呆然とした顔で、相手高校を見つめていた。


勇太と結城が俺のもとに駆け寄る。キャプテンもやってくる。


「・・・行くぞ。渡辺。試合は終わったんだ。整列して挨拶して、学校に帰ろう。」

キャプテンは涙声で俺に声をかける。

「カズ。・・・行こう。」

勇太も声をかける。


俺は立ち上がろうとしたが、全てを出し尽くし、もう立つ力さえ残っていなかった。


俺はキャプテンと勇太に肩を支えられながら、整列し、挨拶をする。

涙が止まらない。自分が、自分の慢心のせいで、先輩たちの夏を奪ってしまった・・・

誰も俺を責めない。
誰もが慰めてくれる。
誰もが「お前のせいじゃない」と言う。


そう言われるたびに、俺の自責の念が膨らんでいく。
やり場のない怒りがこみ上げてくる。





学校へ戻ると、部員の家族、マネージャー、応援団などが待っていてくれていた。


誰もが労いの声をかけてくれる。

「よく頑張った!」

その声が俺を追い詰めていく。


監督が、応援団たちに礼を言う。

「皆さんの応援が、あれだけいい試合にさせてくれました。結果は付いてきませんでしたが、3年生たちにも悔いはないと思います。
本当にありがとうございました!」


「よく頑張ったぞ!!」

「感動した!!」

「いい試合だったぞ!!」


そんな声が飛んでくる。3年生はとっくに泣き止み、笑顔で、みんなとしゃべっていた。

しかし、俺は一人部室に戻り、椅子に座り込んだ。




10分くらい経っただろうか。

部室のドアがあく。

そこにはキャプテンの姿があった。キャプテンは俺の隣にあった椅子に座り、話しかけてきた。

「渡辺、悔しいよな。俺も悔しいよ。みんな同じ気持ちだと思う。試合に出ていない奴らもだ。お前だけじゃない。たしかに気の緩みがあったのは間違いない。そこを相手に突かれた。俺たちは弱かった。それだけのことだ。俺たちがもっと点を入れていたら、あんな展開にはならなかったしな。」

「・・・先輩たちには関係ないですよ・・・」


俺は声を搾り出した。


「関係ない?ふざけるな!!みんな悔しいんだよ。誰だって勝ちたいだろう!?お前だって勝ちたくてマウンドに立ってたんだろう!?それを、俺たちは関係ないだと!!??たしかにお前が打たれてうちは負けた。でもそれはお前だけのせいじゃない。それだけは分かってくれ。俺たちは誰もお前を責めたりしない。それは、誰もがお前のせいだなんて思ってないからだ。」


涙が止まらない。
先輩たちの夏を奪ってしまったことにかわりはない。


「俺は・・・先輩たちの夏を終わらせてしまいました・・・」


「夏なんてものはいつか終わるものだよ。それがちょっと早くなっただけだ。気にしなくていい。」

俺は声を出して泣いた。



すいませんでした・・・


俺の口から出るものは嗚咽と、その言葉だけだった。





気持ちの整理がつかないまま、俺は部室を出て、帰ろうとした。校門までなんとかたどり着いた。

(体が重い・・・)


「・・・体が重いか?」

ふと横を見やると、そこには飯山先輩がいた。


「・・・すまなかった。」


「え?」


「お前にだけ負担をかけさせて、本当にすまなかった。」飯山先輩は俺に頭を下げる。

「や・・・やめてください!!」

「俺は・・・試合が終わったあとに立てなくなるくらい一生懸命投げたことなかった。」

「あれは、俺がただ弱かっただけで・・・」

「違う。お前はすごい。たった2,3ヶ月であそこまで出来るなんて、すごいと思った。」


「そんなこと・・・ないです・・・」

「お前はすごい。ただそれだけ言いたかった。じゃあな。」


それだけ言い残すと飯山先輩は走り去っていった。


作品名:夏の陽射し 作家名:パシフィスタ