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パシフィスタ
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夏の陽射し

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聞こえない。

何も聞こえない。そんな時だった。


「カズ・・・」

頭の中で声がした。

それはとても心地のよい声だった。


「カズ・・・」


頭の中でもう一度同じ声が聞こえた。

その声は間違いなく実澪の声だった。


俺はスタンドを見る。


実澪は手を組み、祈るように下をむいていた。

(実澪・・・。よし・・・)


「おあーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」

気づいたら俺はとても大きな声で叫んでいた。


スタンドが静かになる。

それと同時に、グラウンドにいるチームメイトからも、大きな声が聞こえてくる。


「行けるぞ!!渡辺!!!」

「よっしゃ!!!守るぞ!!!!」

「俺がいるぞ!!カズ!!どんどん打たせてこい!!!」

キャプテンの声が、飯山先輩の声が、そして勇太の声が聞こえる。


スタンドの沈黙を破るように、実澪、小木曽さん、愛李の声が響く。

「行けーーーー!!!」


「・・・よしっ!結城、行こう。」

「ああ、どんどん投げてこい。残りイニングは少ないんだ。全力で来い!」

「よっしゃ!!頼むぞ、相棒!」

「任されよう!」


俺が初めてマウンドに立った時と同じやりとりがそこでは行われていた。


『7番、センター蒲田君』

ウグイス嬢の声が響く。
と同時に

「プレイ!」

審判の声がかかり、いよいよ俺の公式戦デビューが始まる。



(よし、あと4回・・・。全力で行こう。)

俺はあとのことは考えず、思いっきりいこうと誓った。


初球、直球が内角低めに決まる。

「ストライーク!」


審判の声と同時に、スタンドがどよめく。


俺はそんな事は気にせず、無我夢中に腕を振り抜く。


2球目、スライダーが外角いっぱいに決まって2ストライク。


3球目は高めに外れるが、4球目の直球が内角高めに決まって見逃し三振。

その球に対して再びどよめきが起こる。


その声に気づいた俺は、ふとバックスクリーンを見上げると、145kmと表示されていた。


(ははっ・・・俺こんなに速い球投げれるんだ・・・でも、球速なんか関係ない。俺は俺のピッチングをするだけだ!)


俺はそのあとも、バッタバッタと三振の山を築く。

気がついてみれば、8回が終わって6奪三振、被安打2。

完璧だった。



8回の裏、栄光高校の攻撃。

先頭打者は7番の飯山先輩。

その初球。

金属バットの先端にあたった打球は、ショート方向へ勢いのないゴロとなった。

飯山先輩は全力で走る。
すると、飯山先輩はヘッドスライディング。
辺りに砂煙が起こる。


「セーフ!!!」


「うおおーーーー!!!」

一気にベンチが盛り上がる。

「ノーアウトのランナーが出たぞ!!!結城!!つないでいけよ!!!」


続くバッターは8番、結城。

結城は3球目、きっちりとバントを決め、1アウト2塁。


次は9番、勇太。


初球、2球目は、外れてボール。3球目を見逃して、カウントは1ストライク2ボール。


俺はベンチで祈るように勇太を見つめる。

(頼む・・・!勇太!!)

キンッ!!

小気味のいい金属音と共に勇太が走る。打球はセンターへ痛烈な当たりで飛んで、ショートとセンターの間に落ちる。

ランナー1塁3塁。


1番に戻って、片山先輩。

その初球に勇太が盗塁を決め、2塁3塁となる。


(これは大きいプレーだぞ・・・)



俺はネクストバッターズサークルで思う。

仮に1塁に残っていたら、ゲッツーでチェンジになってしまう可能性もあるからだ。

続く片山先輩はいい当たりを放つもののショート正面のライナーに倒れる。


しかし、ベンチもスタンドも今日最高潮の熱気に包まれる。


『2番、ピッチャー渡辺君』

俺は打席に向かう前にスタンドに目をやる。

実澪は一生懸命周りの応援団と共に声を出していた。


その顔は汗まみれになり、化粧も落ち、それでも一生懸命だった。

打席の中で、俺はとても冷静でいられた。


(内野は前進守備・・・頭を超えたら2点目も入るかな・・・)


俺は大振りせずに、コンパクトに叩くことを心がける。
初球、当然相手バッテリーはスクイズを予想して、大きく外してくる。


監督からのサインも、特に意味のないサインだった。
意味のないサインが送られてこない時は、自由にやれ、という意味になる。


2球目、再びボールは高めに浮く。


正直俺は
(これで勝った!)

と思った。


3球目、相手バッテリーの選んだ球は、外角へのカーブだった。

俺はただその球にバットを当てることだけを考えてバットを出す。


キン!


打球はライト方向にふらふらと舞い上がる。


「超えろ!!!」

俺は走りながら叫ぶ。


ベンチからも同じような声が飛んでくる。相手の野手は全力で打球を追う。

一塁手が追う。

二塁手も追う。

右翼手も追う。


二塁手が飛び込む。


しかしボールは二塁手のグラブに触りながらも地面に落ちる。

3塁ランナーの飯山先輩はそれを見て、一気にホームに突っ込む。


右翼手がボールをつかみ、バックホームする。


再び飯山先輩の周りに土煙が立ち、スタンドは沈黙する。




審判の腕が大きく横に広がる。


栄光高校スタンドは歓喜の声が上がる。

そして、俺は少しのスキを突き、一気に2塁まで到達する。

「よっしゃーーーーーーー!!!!!飯山先輩!!ナイスラン!!ナイススライディング!!!!」


俺は2塁ベース上で雄叫びを上げると共に、飯山先輩に向かって拳を突き出す。

飯山先輩も感情を剥き出しにして叫び、俺に向かって拳を突き出す。

そのあと、俺はスタンドに向かって拳を上げる。

実澪は泣きながらそれに応える。


ベンチも今日一番の盛り上がりを見せる。


続く3番のキャプテンも冷静にバットを振り、打球は左中間を破る。


勇太も俺も悠々とホームに帰ってくる。


これで3対0。

歓喜の声が冷めやらぬ中、再び俺はマウンドに上がる。

試合はこれで決着がつく。

この球場にいるすべての人間がそう思っただろう。


しかし、野球の神様はそんなに簡単に俺に微笑んではくれなかった。

俺は気の緩みからか、先頭打者にヒットを許し、続くバッターは抑えたものの、2番、3番バッターに四球をあたえ、ランナーは満塁。

1本ホームランが出れば逆転される。


「タイム!!」

さすがに監督から伝令がやってくる。

野手全員がマウンドに集まる。

「まず、カズに伝令。気を抜いてるんじゃない!勝ったとでも思ってたのか?野球はそんなに甘くないぞ!」

伝令にやって来た同級生の成田に胸を叩かれる。

「それから、野手にも伝令です。」

成田は続ける。


「なぜ誰もマウンドに行かない?野球は全員で支え合うものだろう。とのことです。」


「渡辺、すまん。俺は勝ったつもりでいた。」

キャプテンは俺に謝る。

「よし!皆、切り替えて、1球1球大事に行こう。後悔しないようにプレーしよう。」再び各自のポジションに戻る。



作品名:夏の陽射し 作家名:パシフィスタ