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アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一

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「断ることで、また結衣ちゃんに怖い思いをさせたくなかった。ううん、やっぱり、『断って結衣ちゃんに嫌われるのが怖かった』んだと思う。それに、アタシは家でお母さんに褒められることを期待して色んな事をして、それに対して何の返事もないことの辛さを何度も味わって来たから、告白した人たちが、一生懸命に考えた告白に対して返事がないことの辛さも、少し分かる気がしたの。それで、引き受けたんだよ。……でも、こんなつもりじゃ、無かったのにね」
 僅かに嗚咽を含ませながら、平家は涙を拭うように腕を水面に戻すと、頭を離して、反り返るように水に潜っていった。
 祐一は、それを見送ってから、プールの底に足をつけて立つ。
 それから暫くして、遥か遠く、壁面にタッチしてから、平家も底に足をつけて立った。
 恥ずかしそうに手を振る平家の表情には、何か、呪縛から解放されたような『色』が『視えた』。
 これから歩き出せばいい。
 それが間違いだと、二人が気付いたのだから。
 水中を歩くような、重く負荷の掛かるものであったとしても、ゆっくり歩いて行けばいい。
 『この言葉は必要だろうか』と祐一は考えたが、結局何も言わないことにした。
 平家も尾形も、分かっているのだから、そんな事は言う必要はないのだ。
(……取り敢えず、ひと仕事終了かな)
 そして、祐一は平家に軽く手を振り返した。