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アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一

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エピローグ


「ちょ、ちょっと結衣ちゃん、どこ行くの!?」
「屋上!おさんどん係、あんたもホラ!」
「俺もなのか!?」
 尾形に手を引かれて、祐一と平家が屋上へ走る。
 屋上へたどり着くと、そこには一人の男子生徒が待っていた。
 制服の襟につけられた校章の色からすると、三年生だ。
「ほら、アンタたちは後ろ向いてて。これから返事するんだから」
 尾形は祐一と平家を後ろ向きにさせると制服のポケットから何かを取り出してゴソゴソとしている。
「何してんだ?そもそも何で俺まで……」
「あんたが『万が一』に備えろって言ったんでしょ!?あずさちゃんと二人で何か有ったら嫌だから、当面あんたが責任持って面倒見なさい!いいからじっとしてるの!こっち向くな!」
 不平を言う祐一の背中に、何かが張り付けられた。
「ほら、ピーンとなるように、離れて!」
 流石の祐一も、自分の背中に何が貼られたのかまでは見ることが出来ない。
 この状態では平家も同じだろう。
 顔を見合わせてポカンとしながら、言われた通り何かが書かれた物が綺麗に展開されるまで、幅を広げる。
「うん、これでよし。行ってくる!」
 それを見て、納得したように頷いてから、三年生に向かって歩いていく。
「あの、き、緊張して上手く言えないんで、書いてきました!こういう事なんで、ゴメンナサイ!」
 尾形が頭を思いっきり下げるのが、声のくぐもり具合で察知出来た。
 それを見た三年生が、一瞬ポカンとしたかのような、間が生まれた。
 恐らく、尾形が頭を下げたことで、祐一と平家の背中に貼られた文字が全部見えるようになったのだろう。
「ははっ、はははっ!!……うん、分かったよ。ありがとう。でも、また時期が来たら告白するかも」
「はい、その時はまた、考えさせて下さい」
 三年生の言葉に、尾形が答える。
 三年生の気配が、こちらに近寄ってくる。
 去り際、見知らぬ三年生が祐一の肩を叩いた。
「将来はライバルかもな。今日のところは完敗だ。お互いに頑張ろう」
「は?」
「いいや、何でもない」
 三年生は『愉快なものを見た』、という風に笑いを噛み殺すような息を漏らしながら階段の方へ去っていく。
 一方で、肩を叩かれたことで祐一の背中に貼られた何かが、剥がれ落ちそうになっていた。
「おっと!」
「あっ!?」
 落ちそうになった『それ』を祐一は素早く振り返って、捕まえる。
 掴んだ拍子に、背中に貼られた布に、マジックで書かれた文字が見えてしまった。
「み、見るなー!!」
「え、何?」
「あずさちゃんも見ちゃダメー」
 平家には見られずに布を回収しようと、尾形は布を引っ張るが、もう遅い。
 平家が内容を見て、微笑んでいた。
 祐一はその様子を見て、少し安心してから、尾形に話し掛ける。
「……尾形」
「な、なによ!おさんどん係が調子に乗ったこと言ったら、張り倒すわよ!」
 声をかけた祐一を、尾形が動揺した声で睨みつけてきた。
 祐一は頭を振って、それを否定した。
「お前案外、字、綺麗なんだな」
「……この……バカヤロウ!!」
 両手が塞がっているが故に飛んできた体当たりを、祐一は軽く受け止める。
 それが照れ隠しであることは、よく分かっていた。

 『今はこの仲間たちといるのが楽しいので、誰かとお付き合いする気になれません』

 そこには、彼女なりに真剣に向き合った『色』で、そう書かれていた。
「あずさちゃーん、こいつやっぱりムカつくよー」
 縋り付くように平家に擦り寄った尾形を、平家が笑顔で抱きとめる。
「よしよし。藤井くん、女の子はデリケートなんだから、もっと大事に扱うんだよ!」
 平家の口調は、祐一を窘めながらも、決して怒ってはいなかった。

【302号室 藤井祐一(4)】−『平家あずさの事情』− END