小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一

INDEX|56ページ/83ページ|

次のページ前のページ
 

「…いや、当初その話もあったんだが、俺の方から断ったんだ。由美香ちゃんだってバド部の面倒をみるのに忙しそうだからな。正直な話、復帰の件もあって、ウチの顧問とフジさん、由美香ちゃんには迷惑掛けてる自覚はあるんだよね。今のやり方が正しいかはともかく、俺の問題でこれ以上負担を掛けたくない」
 『下らないプライド持ちやがって』と、思いはしたものの、祐一は口を挟まなかった。
 実際に『送られて』おらずとも、教員たちは帰宅中の平田の身を特に案じていることは間違いないだろう。
 それでも口を挟まなかったのは、平田の心理が理解出来るし、今までそれで後手に回ったり、苦労した経験が祐一自身にもあるからだ。
 加えてタチが悪いのは、この手の勘違いは事が過ぎ去ってから改めて思い返すまで、間違いだったと気付かないことだ。反論されてしまうと却って意固地になって、正論では有っても受け容れられない事になる場合が非常に多い。平田がこの例に当てはまるかは微妙だが、祐一自身が受け容れられなかった事をこの場で平田に求めるのも酷と言うものだろう。
 つまりそれは、『言っても無駄だし、話がこじれる』ということだ。
「…そういや、『空手部の顧問』って誰なんだ?」
 祐一は、代わりに別のことを訊ねる。
 話を通さなければならない相手だ。誰への連絡を優先するべきなのかと言えば、真っ先に『護衛する側』である空手部の顧問の方だろう。
「女子体育の担当だから藤井っちは知らないだろうな。芹沢っていう女の先生だよ。例の事件があった後、卒業生から教員免許と救急救命士の資格を持っている空手家を招聘したんだ。だから、まだ顧問兼コーチになって一年ちょっとくらいかな。…今年は出場禁止明けで、先生にとっては実質、大会参加初年度になる。この間の件でまたプレッシャーが掛かってるから、俺が絡む話でこれ以上、余計な心配は掛けたくない」
 平田が腕組みをして、唸る。
 確かに、平田の立場は非常に微妙だ。
 尚且つ、平家のことも放ってはおけない。
「…フム、そっちの話は難儀だな」
 祐一は平田と同じようなポーズで腕組みをした、その時だった。
「…居るじゃない。一年で、近所に住んでて、そこそこ機転が利いて、一人で帰る子の護衛くらいには出来そうな奴」
 尾形が、こともなげに平田の腕から手を離すと、祐一を指差す。
「「「あっ!」」」
 平田、池本、平家の声が、重なった。
「………えっ?」
 逆に祐一は、首を捻った。