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ACT ARME 8 殺人機

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「っと、忘れていた。お前、また組織に戻るつもりはないのか?」
戦闘を始める前に、男は一つ尋ねる。
組織に戻る。それはすなわち再びルイン達に銃を向けるということにほかならない。
フォートは少し黙った後、静かに返した。
「否定だ。」
その返答を聞き、男は少し残念そうに笑った。
「そうか、それは残念だ。俺とお前とは旧知の仲だからあまり気は進まないんだけどな。お前がその選択をとる以上は仕方がないことか。」
男は再び手で銃の形を作り、それをフォートに突き付けた。
「No.01。お前は組織離反という禁忌を犯した。あの方の命によりこのNo.03が始末する。」
そう宣言し、眼を鋭くさせた。フォートも銃を構えた。
耳鳴りがうるさく聞こえるほどの静寂。それがしばらく続いた後、外でゴトンと何かが倒れるような音がした。
それと全く同時に銃声が連続で響き渡った。



「ルイン!ツェリライ!大変だ!」
ドアをぶち破らんばかりの勢いでレックが帰宅する。
それに驚いたルインがカップの中の熱々のコーヒーを顔面にぶちまけた。
「ヴぁっちいいいぃいいいいぃい!?」
絶叫するルイン。唐突にカオスな空間になってしまった部屋を何とか沈める。
「で?どしたの?そんなに慌てて。」
ルインが不機嫌そうに尋ねる。
「大変なんだ!買い物中に他のデリーターが現れて、フォートを狙ってきたって!」
「まじで?それで、今フォートはどこに?」
「ボクを庇ってそのままそのデリーターと戦ってるはずだよ。急がないと!」
「あいさわかった。ツェル、行くよ!」
「了解です。」
すぐさま三人は外に飛び出した。
それから程なくして、三人はさきほど襲われた場所まで戻ってきた。そこにはフォートの姿もデリーターの姿もなかった。
「遅かった・・・。」
「ツェル。前にアコちゃん探すのに使ったあれは?」
ルインが過去にアコを捜索する際に使用した発明品のことを思い出す。
しかしツェリライは首を左右に振った。
「トラッキングは対象者の孔を追う装置です。アコさんのような莫大な孔ならまだしも、フォートさんのような小さな孔では捜索できる範囲はかなり限られてしまいます。」
「ええい、肝心な時に役に立たないなあ。」
イラつくツインにツェリライがムッとして言葉を返す。
「捜索の方法が一つしかないと、誰が言いましたかね?狭い視野は将来的に身を滅ぼしますよ。」
若干剣呑な雰囲気になりかけるところをレックが宥める。
「ほ、ほら。喧嘩している場合じゃないよ。早くフォートを探さないと。」
「ええ、わかっています。QBU!」
その声に呼応して、ツェリライの頭上にサイコロのような物体が多数現れた。
宙に浮かんだそれらは、しばし停滞した後一斉に散らばって消えた。
「今、QBUにフォートさんの孔を捜索させました。トラッキングと違い、追跡ではなく捜索なので時間はかかりますが、そこまで遠くへは行っていないはずです。おそらく見つかるでしょう。」
「孔の捜索?確かあれにはカメラ機能が付いてなかったっけ?」
レックの質問にツェリライは首を横に振る。
「カメラを使用すると、QBUの探索範囲が小さくなってしまうんです。」
「なるほど。で?所要時間は?」
「フォートさんがどこにいるかにもよりますが、最長で30分ですね。」
「30分か・・・」
ルインはつぶやき、空を見上げる。
基本的に戦闘は長引いたとしても20分程度で終わることが多い。フォートのような戦闘スタイルならさらに早く終わるだろう。
それはいい。勝敗がどうなろうと二人の勝負である以上、第三者の横槍は無粋だと考えているルインは、間に合ったとしても参戦するつもりはない。
だが気にかかることがあるのだ。それはフォート自身のこと。
自分たちと出会う前のフォートと比べて今のフォートが変わっていることに、ルインは薄々感づいていた。だが、今回の接触でフォートが過去の記憶を揺さぶられ、再びあの時の状態に戻るのではないかと考えていた。
それがいいのか悪いのかはわからない。だがルインにとっては納得のいかない結果になることだけはわかる。
「間に合ってくれるといいんだけど・・・。」
ルインは独りごちる。



フォートは銃声が一つしか響かない銃撃戦を繰り広げていた。相手は銃の形をとった手で、見ることも聞くこともできない弾を発射してくる。そう、No.3と名乗る男はこの指から自らの孔を射出して相手を撃ち抜くのだ。
本来ならば連続で指先に孔を込め、発射し続けることは無理がある。指先に連続で孔を込め続けるという行為自体至難の業であるし、たとえそれを発射しても数mと行かないうちに霧散する。
本来孔は何か物質に纏わせたり、炎や氷といった属性に変化させない限り、すぐに消滅してしまうのだ。
しかし、この男はその無理だとされることをやってのけた結果、目標を撃ち抜く際に一切の物音も痕跡も無しに仕留められるようになった。
その結果、ついた字名は「無音狩人(サイレンスキラー)」。狙われた者は狙われたことにすら気づかずに風穴を開けられる。
対してフォートはこの激しい戦闘の最中、No.3の指先と視線で弾道を読み切り、回避している。No.3もまた、フォートの寸分の狂いもない精密射撃を前に完璧な対応を見せている。
第三者がうかつに手を出せばたちまち蜂の巣にされることは火を見るより明らかなこの状況。なぜなら、二人の弾の防御方法がほとんど弾で弾を撃ち落とすというものなのだ。例え角度が1°でもずれようものならその瞬間に決着はつく。
そんな状況でも二人は冷や汗一つ流さずに己の引き金を引き続けた。
「お前だけだよ。オレと銃撃戦をやりあえるのは。こう言っちゃなんだが、気分が高揚するぜ。」
不敵に楽しそうに微笑うNo.3に対し、フォートはやはり無言無表情で返した。
この男は組織の中でも古参である。つまりそれだけ任務を遂行した数も多いのだが、この男は自分と違ってごく普通の一般人のように振舞う。自分がいかに無言無表情でも全く気にせずによく絡んできた。任務から戻ってきた後も今日は万事うまくいったとおちゃらける。No.3が組織に入る前の過去は知らないが、少なくとも組織に入ってからは自分と同じような時間を経てきている。それなのにこの違いはどこから生まれるのだろうか?
以前は脳裏をよぎりもしなかった思考が脳内を駆け巡る。
「ぼさっとしていていいのか?」
フォートが思考にふけりそうになったその一瞬を狙ってNo.3の弾が放たれる。フォートはとっさに上体をずらし回避した。
今は考えにふけっている場合ではない。今は目の前の敵を撃破することのみを考え、動くべきだ。
フォートは己に集中を入れなおした。

互いに一歩も譲らぬ攻防。いつ決着がつくかわからない。いつ決着がついてもおかしくはない。
その時だった。
「そろそろ終いにするぜ。」
互いの距離が近くなった瞬間を狙い、No.3が突っ込んできた。フォートは銃を向けようとするが、相手が接近するのが早いと判断し、咄嗟に銃で突く。No.3はそれを跳躍して回避し、右手の指先をフォートの額に押し付けた。
作品名:ACT ARME 8 殺人機 作家名:平内 丈