ACT ARME 8 殺人機
しかしフォートはしゃがんで指先から逃れ、同時に鳩尾に向かって銃を突きつける。No.3は残っている左手でそれを弾いた。
そのままフォートを飛び越すような形で後ろに回り込む。すぐさまフォートも振り返って銃を構える。
だが、振り返ったフォートの視界には、手は銃の形をとったまま、まるで弓矢を構えるような形をとったNo.3の姿があった。
フォートは、このあと何が来るのかを知っている。アレは銃撃で撃ち落とすのは無理だ。咄嗟に回避行動に移ろうとしたフォートだが、相手が引き絞った矢を放つ方が先だった。
「至高の狩人(ロビンフッド)!」
両手を直線上につなげ、二つの孔弾は一本の矢のごとく放たれた。
「! 今ここから3km程離れた場所で大きな孔の反応が見受けられました。」
それまで少しうつむき加減で目を瞑り、QBUから送られてくる情報に集中していたツェリライがおもむろに顔を上げる。
「本当!?じゃあそこにフォートがいるの?」
「あくまで大きな孔の反応、おそらく戦闘が行われているということが判明しただけです。まだフォートさんと確定したわけではありません。」
声を上げるレックにツェリライは冷静に返す。
「わかった。じゃあ僕とレックはその場所に向かう。ツェルは引き続き捜索しといて。何かあったらすぐに連絡お願い。」
「了解です。それとルインさん。念の為にこれを持って行ってください。」
そう言ってツェリライはルインに小さい錠剤のような形のものを渡した。
「なるほどね。わかった、じゃあ行ってくる。」
それを受け取ったルインは、レックとともにその場所へと急行した。
無音で放たれた必殺の一矢は、一直線にフォートに直撃した。
しばらくの静寂のあと、フォートがゆっくり起き上がった。
「やっぱ致命傷にはなってないか。完全に隙を突いたと思ったんだけどなぁ。ほんとお前、どういう反射神経してんだよ。」
フォートは額から血を流しているが、それでもしっかりと立っていた。
「一つ、質問がある。」
これまで沈黙を保っていたフォートが口を開いた。
「あ?なんだ、藪から棒に?」
少し驚いて聞き返す。
「お前は、任務を遂行する際何を考えている?お前は、己と同じ存在でありながらなぜ感情を保っていられる?」
しばらく静かな時間が続いた。
「は?」
鳩が豆鉄砲くらった顔を浮かべ続けていたNo.3がようやく発することができた言葉がこれだった。
「え?なんだその質問?お前そんなことを考えながらオレと戦っていたのか?だから妙に動きが鈍っていたのか?」
「肯定だ。」
No.3はまじまじとフォートの顔を眺めた。
「・・・本当にお前は変わったんだな。」
自分でも同意する。以前はこんなこと気にかけることもしなかっただろう。
だが、『フォート』は気になるのだ。殺人機として動作し続けた自分自身が、果たして必要だったのかと。
人を、人たらしめているものはなんなのだろうかと。
「せっかく初めて質問してくれたのに悪いが、それはオレにもわからない。特に意識したこともないからな。ただ、こんなことをやっていてもオレは人だ。人である以上何かと楽しんだほうが良くないか?」
人である以上、楽しんだほうがいい・・・か。
「ま、お前にどういった心境の変化があったかは知らないが、そろそろ決着付けようぜ。
最も、片方使い物にならなくなったその双銃で、オレを倒せるならの話だが。」
そう、フォートは先ほどの技を回避するために銃で防御した。結果軌道がそれて額をかする程度で済んだのだが、その代償として盾となった片方の銃は使用不能の状態に陥ってしまったのだ。
おまけに額から流れる血のせいで、若干視界が赤くぼやけている。
No.3が一足の元に飛びかかってくる。
先程までのフォートであれば問題なく対応し反撃できるが、視界の自由がきかない今では追うことで精一杯だ。
加えて相手は二丁でかかってくるのに対し、フォートは一丁。今までのように撃ち落として対応するのもままならない。
「隙が出来てるぞ?」
隙を突かれ、後ろに回り込まれる。咄嗟に横に跳んで回避したが、跳躍しての回避は新たな隙を生む。そこをNo.3は蹴り飛ばした。大きく飛ばされるフォート。今度こそ完全に無防備になった。
「悪いな。 これで、終いだ!」
No.3は再びあの構えをとり、引き絞った手を離した。
「どういうことだ・・・?」
No.3は呆然とする。自分は確かに完全に無防備になったフォートに向けて必殺の一撃を放った。それで終わるはずだった。
なのに終わらなかった。なぜなら放った一撃が外れたからだ。では何故外した?この距離なら外すなんてまずありえない。いや、そもそも自分が外すということ自体ほとんど有り得ないと言っていいはずなのに。
そしてあの一瞬、後ろにさげた右腕が妙な抵抗を感じたことを思い出した。
「まさか!」
声に出すと同時に右腕を上げようとする。だが思うように上がらない、そして自分の右腕からフォートに向かってうっすらと何かが繋がっているのが見えた。
これはワイヤーだ。おそらく自分が蹴り飛ばしたあの一瞬で引っ掛けたのだろう。そして自分が至高の狩人(ロビンフッド)を放つ瞬間にワイヤーを引っ張り照準をそらしたのだ。
そして次にあいつがとる行動は一つ。No.3は急いでワイヤーを外そうとしたが、それよりもフォートがワイヤーを引っ張る方が早かった。
強い勢いで急速にフォートに向かって飛んでいくNo.3。その最中にフォートはNo.3の両手足を撃ち抜いた。
「勝負あり、か。やっぱりお前には敵わないな。」
両手足が使えなくなり、壁にもたれこんだNo.3が観念したように言う。
そんなNo.3を前にフォートはしばらく立ち止まり、そして銃をNo.3の頭に向けた。
「・・・やっぱお前は、『それ』だからこそ強いんだろうな。」
No.3はそう呟き、ふっと微笑った。
「あばよ。『殺人機』。」
「フォー・・・。」
ルインとレックの二人が中に飛び込み開口一番名前を呼ぼうとした直前、銃声が鳴り響いた。
反射で防御の構えを取る。だが、銃声はこちらに向けられたものではないようだ。
そして、二人はその銃声がどこに向けられたものなのかをすぐに把握した。
「フォート・・・。」
そこには、額に穴を開け、そこから大量の血を吹き出している男だったモノの姿と、その返り血を浴び、己の血と混濁させてもなお無表情のまま銃を懐に収めている者の姿があった。
そのショッキングな光景に、二人は立ち尽くしていたが、レックはそこから歯を食いしばり、もう一度その名を叫ぼうとした。
しかし、名前を呼びきるその前にルインが静止した。
驚いて振り返るレックに、ルインは静かに首を左右に振った。
フォートは、いや、No.1は、そのままこちらに歩み寄ってくる。そしてそのまま二人と視線を合わせることもせずに横を通り過ぎた。
「フォート!」
小さくなっていく後ろ姿に、レックは堪えきれずにもう一度名前を呼んだ。しかし、やはり返事は返ってこなかった。
当然といえば当然なことかもしれない。いくら必死になって呼びかけようとも、機械が返事をよこすことなどないのだから。
作品名:ACT ARME 8 殺人機 作家名:平内 丈