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わたなべ しんご
わたなべ しんご
novelistID. 48240
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Paff(仮)

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 だんだん靄が晴れていき、目の前に影が見えてきた。目を凝らして見ると、その影には長い首と、翼のようなものがあるのがわかった。

「・・・っ!」

ヒカリは息を呑んだ。言葉が出てこない。

 やがて、完全に靄が晴れた。

 

そこにはドラゴンが立っていた。

頭を垂れて、恥ずかしそうにこちらを見ている。

「おかえり」

 ヒカリはただ一言、そう言った。

 ドラゴンは驚いたのか一度大きく目を見開き、次に目を細めて言った。

「・・・た、ただいま」







 気が付くと、僕は真っ暗で何もない空間にいた。頭痛はもうしない。辺りを見回しても、何もない。誰もいない。

 すると目の前に、どこからともなく光の粒が無数に現れ、それらはやがて人の形を形成していった。

「やあ。気分はどうだい。こうして会うのは今回が初めてだね」

「・・・・・・」

僕が何も言わないでいると、人の形をしたそれは肩をすくめるような仕草をした。

「のっぺらぼうと話をするのは気分が悪いだろうから、ちょっと変えるよ」

 そう言うと、それはパチンと指らしきものを鳴らした。すると足の方から色が這い上がるように、靴が現れ、ズボン、シャツ、そして顔が出来上がった。その顔は、僕がよく知っている顔だった。

「ふう。どうだい?なかなかハンサムに出来ただろう?」

 僕と同じ顔になったそれは、薄ら笑いを浮かべながら言った。

「まさかこんなことになるとはね。どうやって入ったか知らないけど、おせっかいな奴らがいたもんだよ。君もそう思わない?誰にも裏切られることなく。自分のだけの世界で幸せにやってきたのに」

「・・・奴ら?」

「そうさ。あの女に、君の夢の中に侵入できる程の力量があるとは思えない。後ろ盾する奴がいるに決まってるさ」

「ここはどこ?」

 そう尋ねると、それは大きな声でゲラゲラと笑った。

「ここはどこ、だって?さっきと同じさ。一歩たりとも動いちゃいない。まあ、少し風景は変わっちゃったけどさ」

「・・・・・・」

「あの女のせいで、辻褄が合わなくなっちゃったからさ。リセットさせてもらったよ。残念だったね。美少女のパンツを見て、キスして、一緒にご飯を食べて。ふふ。この次は一体どんな素敵なことが起こったんだろうねえ。せっかくのシナリオがパアだよ」

 それは両手を上げて、残念そうに首を振った。

「・・・きみは誰?」

「さっきから質問ばかりだね。まあいいよ。ボクが誰かなんて、君が一番知っているじゃないか。忘れたなんて言わせないよ」

「・・・・・・」

 僕が答えないでいると、それは大きくため息をついて続けた。

「ボクは君の魔法さ。あの時、君が君自身にかけた魔法。君の欲望の塊。いわば君自身さ。あの時から君の望む世界を作ってきた。君の一番の友達だよ」

「友達・・・」

「そうさ。ボクが一番君を知ってる。一番君を想ってる。ボクは君を裏切ることはしない。本当の友達は友達を裏切らない。そうだろ?」

 そうだ。友達は友達を裏切らない。裏切られるのは怖い。

「ボクは君を絶対に裏切らない。ずっと君を守るし。今までそうしてきた。今回はちょっとイレギュラーがあったけど、大丈夫。記憶を消して、あの女のことなんてなかったことにするから」

 

あの女。朝倉さん、いや、高良ヒカリという女の子は僕を裏切るだろうか。あの目、あの声、あの指先の感触。それらを忘れてしまうのはなんだか惜しい気がした。

あの女の子は待ってると言った。向こうで待ってると。

あの女の子は僕を信じているのだろうか。そして僕が目覚めなければ、あの頃の僕のように傷つくのだろうか。それだけは、それだけはしちゃいけないことだと思う。



「・・・・・・」

「何を考えているんだい?さて、そろそろ次の夢が始まる時間だよ。ふふ。今度はどんな話がいいかなあ。今回失敗しちゃったから、また学園ラブコメにリベンジするってのもいいよね。君はどう思う?」

「・・・・・・」

「あのお姫様を助けに行く話は傑作だったよね。でもそういうのはもうマンネリかな。ああ、君は夢の記憶は毎回なくなるんだっけ?」

「・・・・・・」

「なんか言いなよ。今回は特別だ。君の希望を聞いてあげてもいいよ。さあ次の夢では何を望む?友か、恋人か、金か、愛か、名声か、崇拝か、希望か、絶望か、非日常か、日常か。なんでも手に入るぜ」

 何でも手に入る。けどそれらは結局、偽物だ。夢の中の出来事でしかない。夢はいつか覚める。やまない雨はない。曇らない晴れもない。不変はあり得ないんだ。

「・・・なにもいらない」

「なんだって?」

「なにもいらないって言ったんだ。もう終わりにしよう。僕は変わりたいんだ」



 それは驚いたように目を見開き、僕をまじまじと観察した。

「おいおい本当?あの女に当てられちゃったんじゃないの?よく考えなよ。外の世界には、君を傷つけるものがたくさんある。あの女だって、今に君を捨てるに決まっているさ」

「・・・・・・」

「やっぱり怖いんだろう?だったらほら、ボクに任せておきなって。君を一切傷つけない世界を作ってあげるよ」

 それはひどく優しく語りかけてくる。そう。外の世界は怖い。また裏切られるかもしれないと思うと、体の奥の方がガクガクと震える。でもそれじゃいけないんだって、彼女は教えてくれた。彼女の笑顔を思い出すと、心の奥の方が暖かいもので満ちていくのがわかる。

「・・・必要ない」

 そう強く言い放つと、それは怖気づいたような顔になり僕の肩をつかんで言った。

「なんでだよ。いままで君を守ってきたのはボクだよ?ボクは君の友達だ。君は友達を裏切るって言うのかい?」

「・・・・・・」

「できないよね?君にできるはずがないよ。君に裏切られたら、ボクはどうすればいいんだ」

 彼を産み出してしまったのは、かつての僕の弱さだ。彼を振り払わない限り、僕は前に進めないだろう。僕は、彼を強く抱きしめた。

「い、いやだ、ボクを裏切らないで!」

 僕の腕の中で、彼は逃れようともがく。僕は彼をさらに強く抱きしめた。そして、いままで僕を守ってくれた友人に、お礼を言った。



「いままでありがとう。君のことは、一生忘れない」



 すると彼は力を抜き、眠るようにささやいた。

「ちぇ、全部あの女のせいだ。いいかい?また悲しいことがあったら、いつでもボクを呼んでくれていいぜ」

「そんなことはもうないよ」

 僕は自分に言い聞かせるように言った。もう弱い自分とは決別するんだ。

「ふふ。そうなることを、祈ってるよ」

 そう言うと、彼は消えていった。

 暗い空間の中で、僕は一人になった。やがて暗闇の一点に光が差し込み、闇を呑みこんでいった。あまりのまぶしさに、僕は目を瞑る。



 再び目を開けると、そこには白い靄が充満していた。僕は首を上げ、ゆっくりと立ち上がった。

 やがて靄が晴れてくると、随分下のほうにある足元に人間が立っているのが見えた。僕は目を凝らす。

 そして霧が晴れ、目の前にいるのが夢に見たあの女の子、高良ヒカリだということがわかった。
作品名:Paff(仮) 作家名:わたなべ しんご