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わたなべ しんご
わたなべ しんご
novelistID. 48240
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Paff(仮)

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「あっ、もちろん朝倉さんが良ければだけど・・・。家の人が帰ってくるなら言って。転校初日で色々話すこともあるでしょ?」

 彼の言葉に、ユイはうつむいてこう呟いた。

「・・・こない」

「えっ?」

「家の人、帰ってこない。父さんはずっと仕事」

「そ、そうなんだ・・・」

 急にしおらしくなったユイに驚いて、少年は何を言っていいかわからなくなったようだ。

「・・・・・・」

「・・・あの・・・その・・・」

 今にも泣き出しそうな自分(ユイ)と、何か言おうとしているが言葉が見つからなくおろおろしている男の子。傍から見てるとなかなか面白い場面である。

「じ、じゃあさっ。やっぱりうちにおいでよ。僕んちもさ、今日から親が出張で、誰もいないんだ」

「・・・・・・」

 ゆっくりと顔を上げるユイ。

「ロールキャベツ、食べよう。作りすぎちゃって、一人でどうしようかと思ってたんだ」

「・・・・・・」

「一人より二人のほうがぜったい楽しいし。ね?そうしよう」

 少年、ここでスマイル。なかなかいい顔するじゃんか。とヒカリは思った。

「・・・・・・」

ユイは少し考えて、ぷいっと横を向いた。

「・・・そこまで言うなら、食べてやってもいい」



「・・・・・・ねえ仲介者」

 このやり取りを見て、ヒカリはどこかにいるであろう仲介者に尋ねた。

『なに?』

「わたし、こんなツンデレキャラじゃないんだけど」

『つんでれ?それはなに?』

「・・・まあいいや」





 



2度目のビンタを今度は右の頬にヒットさせると、朝倉さんはさらに僕を追い立てる。

「アンタと仲良くするつもりなんか無いってさっきも・・・」



ぐうぅぅ・・・。

 しかしその声は大きな音に遮られた。

「っ!」

 朝倉さんは顔を真っ赤にして自分のお腹を押さえた。

「今の音、朝倉さん?」

「ち、違うわよ」

「だって今二人しかいないし・・・」

「違うって言ってるじゃないっ」

「もしかして、お腹空いてるの?」

「うっ・・・」

 彼女の顔はさらに赤くなっていく。図星みたいだ。というか、バレバレだ。

「ロールキャベツ作ったんだ。自分で言うのもなんだけど、僕、料理には自身あるんだ」

 えへん、とわざと胸を張っておどけてみた。だけど朝倉さんは顔を俯けたままだ。

「あっ、もちろん朝倉さんが良ければだけど・・・。家の人が帰ってくるなら言って。転校初日で色々話すこともあるでしょ?」

「・・・こない」

「えっ?」

 朝倉さんの声は小さくて、何を言ったか聞き取れなかった。朝倉さんは俯いたまま、さっきより少しだけ大きな声で言い直してくれた。

「家の人、帰ってこない。父さんはずっと仕事」

 その声には抑揚がなく、さっきまでの勢いはどこかに行ってしまった。そんな朝倉さんの態度と言葉は予想外で、僕は何を言っていいか分からなくなってしまった。

「そ、そうなんだ・・・」

「・・・・・・」

 朝倉さんは俯いたまま、何も言わない。な、泣いているのだろうか?

「・・・あの・・・その・・・」

 な、なにか無いだろうか。朝倉さんを元気づけられるような何かが。あ、そうだ。僕を気を取り直し、明るい声で言った。

「じ、じゃあさっ。やっぱりうちにおいでよ。僕んちもさ、今日から親が出張で、誰もいないんだ」

 結局今は、ロールキャベツしかなかった。

「・・・・・・」

 朝倉さんはゆっくり顔を上げる。やっぱり少し、その眼は潤んでいた。ドキリ、心臓が大きく動いた。

「ロールキャベツ、食べよう。作りすぎちゃって、一人でどうしようかと思ってたんだ」

「・・・・・・」

「一人より二人のほうがぜったい楽しいし。ね?そうしよう」

「・・・・・・」

朝倉さんは少し考えた後、ぷいっと横を向いた。

「・・・そこまで言うなら、食べてやってもいい」

「・・・・・・」

 なんて可愛いんだろうか。





 

 ここは少年宅。といっても間取り自体はユイの家とまったく同じである。そのリビングで、二人は向かい合わせに座って一緒ににロールキャベツを食べた。一見それは恋人同士のようなのだが、たまに交わされる言葉が拙い。むしろ新婚さんのようで、見ているヒカリが恥ずかしくなってしまった。

「お皿片付けてくるから、朝倉さんはここでゆっくりしててよ」

 少年は食後のお茶を二人分テーブルに置くと、食器を持ってキッチンに入っていった。



『・・・そろそろね』

仲介者の声が、ヒカリの中で響いた。

「そろそろって?」

『あなたを、朝倉ユイと一体化させるわ』

「一体化って・・・えぇっ?」

『この世界に入って来た時のように、彼女の中に入るの。そうすれば、あなたはこの世界の人間に触れられるし、話をすることもできる』

「入ってどうするの?」

『彼を説得するの』

「そ、それだけ?」

『そう。説得というより、この世界が現実ではないということを、彼に理解させてほしいの。少年はドラゴンの意識の塊。彼を目覚めさせることは、ドラゴンの魔法からの解放と同じ。彼の目覚めによって長かった物語は終わり、ドラゴンは目を覚ます。私たちの目的は達成されるわ』

「言うのは簡単だけど、どう説得すればいいかわからないよ」

『大丈夫。あなたがいつも、どういう風に考えて毎日を過ごしているのか、辛いことがあったらそれをどういう風に克服するのか、あなたの思っていることを教えてあげればいいのよ』

「・・・わたしにできるかな?」

『あなたならできるわ。いえ、あなたにしかできない。あなたは選ばれたのだから』 

「うん。そうだね。よし、がんばる」

『それじゃあ、始めるわ』

 仲介者がそう言った途端、ヒカリはまたもビー玉のような光の球体に凝縮され、イスに座る朝倉ユイという自分の分身とも言える存在の中に入っていった。

「うっ」

 朝倉ユイが、一瞬うめき声をあげ、ガックリと頭をうつむかせる。

「だ、大丈夫?朝倉さん!」

少年がその声を聞いて慌ててキッチンから出てきた。そこにいるのはもう朝倉ユイではなく高良ヒカリなのだが、彼には知る由もなかった。

「朝倉さん・・・?」

「・・・うぅ」

 ヒカリは一体化の反動からか、眩暈が止まらず俯いていた。

「だ、大丈夫?朝倉さん」

「『朝倉』じゃない・・・」

「ど、どういうこと?」

「私は、『朝倉ユイ』じゃないっ」

「え・・・?」

 彼はかなり困惑した表情をしていた。無理もない。

「私の名前は、『高良ヒカリ』。結論から言うと、わたしはこの世界の人間じゃない」

 眩暈が治まったヒカリはまっすぐに彼を見つめ、そう言った。

「・・・へっ?」

 彼は呆けたような顔をした。当然の反応だ。

「と言うより、この世界自体が本当の世界ではないの」

「ど、どういうこと?」

「この世界は、本当の世界のあなたが見ている『夢』なの。この世界は、本当の君が作り出した、夢の世界。幻なの。わたしは、この夢の世界を終わらせるためにここへ来た。あなたを救うために」

「・・・・・・」
作品名:Paff(仮) 作家名:わたなべ しんご