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わたなべ しんご
わたなべ しんご
novelistID. 48240
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Paff(仮)

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ピンポーン



「・・・・・・」



またも反応がない。出かけているのだろうか。僕は何気なくドアノブに手をかけ、外開き式のドアを引いてみた。

「あれ」

 ドアは何の抵抗もなく開いた。20センチほど開けた隙間の先には、薄暗い玄関が見えた。鍵の閉め忘れだろうか。

 僕は顔を少し入れ、部屋の奥に向かって呼びかけた。

「朝倉さーん・・・」

 やっぱり返事がない。鍵を閉め忘れたんだろうか。ふと視線を落とすと、朝倉さんのものであろうローファーだけが脱ぎっぱなしのまま放置されていた。出かけているわけではないみたいだ。

「朝倉さーん。いるのー?」

 さっきよりも大きな声で言ってみる。相変わらず返事はない。

「・・・まさか・・・」

 一つの懸念が僕の頭をよぎった。僕が呑気にロールキャベツを作っている間、朝倉さんは何かの事故に巻き込まれてしまったんじゃあ・・・!

「あ、朝倉さんっ」

 僕はいてもたってもいられなくなり、他人の家ということも忘れて玄関に入り、靴を脱いで玄関から一番近くの部屋の扉を開ける。「朝倉さんっ!」

 その部屋にはまだ開封されていないダンボールがいくつも積んであるだけだった。ここじゃないか。

「あと部屋といったら・・・」

 自分の家じゃないとはいえ、同じアパートだ。間取りは大体想像がつく。

朝倉さんの家は薄暗く人の気配が感じられない。それがこの嫌な予感をどんどん加速させていった。

「朝倉さんっ!」

 次の部屋の扉を開けると、そこはさっきと同じようにダンボールが積まれていたが、シングルベッドが一つ窓際に置かれていた。

「・・・あ」

 そしてその上に、朝倉さんがすうすうと寝息を立てて眠っていた。ネコのように背中を丸め、口元には軽く握られた小さな手が置かれている。

「・・・・・・」

 僕はその姿に見入ってしまった。彼女の不機嫌そうな表情しか見たことがなかったからか、その穏やかな表情をしている朝倉さんはまるで別人のようだった。小さく開かれた唇は可愛らしいピンク色で、スカートから伸びる肢体はどこか艶やかだった。今日の朝と昼休みのことが、フラッシュバックする。

「・・・ゴクッ」

 生唾を呑みこむ音が、やけに大きく耳に響いた。



「・・・う・・・ん・・・」

 

 さっきまで穏やかに眠っていた朝倉さんが、寝苦しそうに小さく声を上げた。そして何の前触れもなく目を開いた。その視線はバッチリと僕を捕える。

「・・・・・・」

 朝倉さんはしばらく何も言わずに僕を見つめるだけだった。こ、この状況は、マズい。

「・・・・・・あはは」



ばちーん!



朝倉さんのビンタが、僕の左の頬に炸裂した。

「ここで何してんのよ。バカッ、変態っ!信じらんない」

「ごごご、ごめん。ただ、夜ご飯を一緒に食べようと思って・・・寝てるとは思わなかったんだ!」

 痛みで熱くなった頬を押さえながら、僕は弁解するけど、今回ばっかりは言い逃れできない。いや、今回も、か。

「別にアンタと食事なんかしたくないわよっ!寝込みを襲おうとしたくせに!」

「ち、違うよ。せっかく隣同士なんだから仲良くしようと思って・・・チャイム押しても誰も出ないし、鍵も開いてたから・・・」

「だからって入ってくんな!」

 

 ばちーん!



 ・・・ごもっともです。







ヒカリはあるアパートの一室にいる。その部屋にはシンプルなベッドと勉強机が置いてあった。そのベッドの上には、ヒカリと同じ顔をした朝倉ユイという名前の女の子が寝ている。それはもう、ぐっすりと。

自分の寝顔、それもあまりいい寝顔だとは思えないが、生きているうちに自分の寝顔を見られるなんて貴重な体験だなぁと考えている自分は、なかなか冷静だと思う。



ガタンッ



部屋のドアが開き、なんと例の少年が入ってきた。この物語の主人公であり、今まさにこの夢を見ているドラゴンの変わり身だ。何度も言うが、この世界の住人にヒカリの姿は見えない。

 彼は朝倉ユイが寝ていることに気づくと息を呑み、その姿に見惚れていた。

「おいおい・・・」

 ヒカリは思わず呟いた。彼の目にはきらきらエフェクト効果が加わって見えるのだろう。しかし、なんでこの部屋に入ってきた?女子が眠る部屋に勝手に入ってくるなんて!

「・・・う・・・ん・・・」

 ユイが目を開けた。そして、少年とバッチリ目が合った。数秒間、二人は見つめ合う。

「・・・・・・」

「・・・・・・あはは」



ばちーん!



ユイの平手打ちが炸裂した。

「ここで何してんのよ。バカッ、変態っ!信じらんない」

「ごごご、ごめん。ただ、夜ご飯を一緒に食べようと思って・・・寝てるとは思わなかったんだ!」

 彼はしどろもどろ弁解をしている。その顔にはくっきり手のひらの痕が残っている。

「別にアンタと食事なんかしたくないわよっ!寝込みを襲おうとしたくせに!」

「ち、違うよ。せっかく隣同士なんだから仲良くしようと思って・・・チャイム押しても誰も出ないし、鍵も開いてたから・・・」

「だからって入ってくんな!」

 

 ばちーん!



 そう。

 ヒカリがいるこの部屋は、少年の自宅の隣りなのだった。

一日中机をくっつけて授業を受けた学校の帰り道、なぜか帰り道が一緒になってしまう二人は無言に、しかし互いを意識しながら歩を進めた。たどり着いた場所は同じマンションで、エレベーターの中でも二人は無言で階層を示す表示を見上げ、お互いが隣り同士の玄関のドアノブに手をかけた時、ユイがようやく口を開いた。

「なんであんたがここにいるのよっ」

「いや・・・だってここ僕の家だし・・・」

「なんであんたの家が、よりにもよってここなの!」

「そ、そんなこと言われても」

「・・・家が隣だからって、アンタと馴れ合うつもりなんか絶対にないんだからっ」

ユイは早口に言うと、急いで家の中に入っていった。

 それまでのやりとりを見て半ば呆れていたヒカリは、仲介者の指示でユイについて行った。ユイは自分の部屋であろう一室に入り、ベッドに腰を下ろす。「ふう」と息を吐き、そのままゴロンと体を倒した。そして天井を見上げ、「なんなのよ、アイツ」と呟いた。

しばらくユイは天井を見上げていたが、いつの間にか寝息をたてていた。転校初日で疲れていた。ということなんだろう。



そして、現在に至る。

「アンタと仲良くするつもりなんか無いってさっきも・・・」



ぐうぅぅ・・・。



「っ!」

 ユイは顔を真っ赤にして自分のお腹を押さえた。

「今の音、朝倉さん?」

「ち、違うわよ」

「だって今二人しかいないし・・・」

「違うって言ってるじゃないっ」

「もしかして、お腹空いてるの?」

「うっ・・・」

 ユイの顔はさらに赤くなっていく。図星のようだ。というか、誤魔化しかたが下手すぎる。

「ロールキャベツ作ったんだ。自分で言うのもなんだけど、僕、料理には自身あるんだ」

 えへん、とリュウタロウは胸をたたく。
作品名:Paff(仮) 作家名:わたなべ しんご