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わたなべ しんご
わたなべ しんご
novelistID. 48240
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Paff(仮)

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 何も言い返せず、俯いた私は目から涙が溢れそうになった。目の前の二人が勝ち誇ったように笑うのが、前を見なくても何となく感じ取れた。そうか私は変な性格をしているのか、と心の奥では冷静に考えている自分もいた。



「・・・別に変えなくていいと思う」

 さっきまで黙々と給食を食べていた私の隣の席の女の子が、はっきりとした口調で言った。私は顔を上げて、今まで話したこともないその子の顔を見た。彼女も私の顔を見つめている。

「なによ堀川さん。私たちは高良さんのことを思って言ってるのに」

「そうだよ。私たちが間違ったこと言ってる?」

「・・・・・・」 

彼女はクラスメイトの問いには答えず、まっすぐ私を見つめて言った。

「私は、高良さんのそういう性格、すごく素敵だと思う。だから、高良さんは、今の高良さんのままでいいと、私は思うな」

 その言葉はとても優しく私の中に入ってきて、凍り付いてしまった心を溶かした。私はなんだか恥ずかしくなって、顔が熱くなるのを感じた。それでも自然と笑顔が浮かぶ。そして彼女、中学生の頃のマヤも優しい表情をしていた。

「・・・ありがとうっ」

それが、私とマヤの出会いだった。



 曇りかぁ・・・。

 ヒカリは目覚めると、まずそう思った。カーテンから漏れる光は弱く、なんとなくドンヨリしている。昨日はあんなにキレイな天気だったのに・・・。起こした体もなんとなく重い。やっとのことで窓際にたどり着き、カーテンを開ける。

「はぁ・・・」

 やはり外の空には、黒く重そうな雲が、地球を覆いつくしてしまったかと思うくらいに広がっている。今にも雨が降りそうだ。こんな日はなんとなく気分も暗くなってしまう。

 今日は土曜日で学校は休みだ。ゆっくりご飯を食べて、それからあの洞窟に行こう。仲介者との約束は正午だから、充分間に合うはずだ。

 ヒカリはパジャマのまま一階へ。顔を洗ってから鏡の自分に笑ってみた。髪を乾かさないで寝たせいで寝癖がひどく、なんとなく笑顔もぎこちない。顔を拭き、ヒカリはリビングへ向かった。

「・・・おはよー」

「おはよう。すごい寝癖ね。ごはんできてるわよ」

「はーい」

 テーブルに目を移すと、一人分の朝食(アジの開きと卵焼きとサラダ)が並べてあった。ヒカリはいつもの席に座る。

「もう私は食べちゃったわよぉ」

 そう言いながら、母さんがご飯とお味噌汁を持ってきてくれた。温かいお味噌汁の香りを嗅ぐと、少しだけ元気が出てくる気がした。

「いただきます」

 まずお味噌汁に口をつける。ほう、と思わず大きなため息が出る。

「今日のご予定は?」

 キッチンから母さんが尋ねてくる。

「んーと、もう少ししたら出かけてくる。少し遅くなるかも」

「そうなの。今日は雨が降るみたいだから、気をつけなさいよ」

「うん。わかった」

母さんに行き先について聞かれなかったことに安心しつつ、ヒカリはそう答えた。ヒカリは食事をつづける。



「ごちそうさまでした」

お皿にあったものをきれいに平らげて、ヒカリはそう言った。

自分が使ったお皿を台所へ運び、洗い物をしている母さんへ、

「おねがいしまーす」

と言った。『ついでに洗っといて』の意味である。

「はいはい」

ヒカリはそのまま洗面所へ。習慣である食後の歯磨きをして、苦労して寝癖を直し、今日の準備のために自分の部屋に戻った。

 ヒカリはジーンズとクリーム色のパーカーに着替えた。おしゃれとは言えないが、別に渋谷に行くわけでもないから気にしなかった。ケータイ、それから財布をジーンズのポケットに、肩掛けバッグには折り畳み傘と100円で買ったビニールのレインコート、それから去年の誕生日に無理して買ってもらったデジタルカメラ(それ以来お小遣いが半額)を入れた。それから空腹になった時のため、夜食用に買い貯めているカロリーメイト(チョコ味)を一箱。

「よし。こんなもんかな?」

 階段を下り、リビングでテレビを見ていた母さんに「いってきます」を言ってから玄関へ。お気に入りの水色のスニーカーを履いてドアを開ける。相変わらずドンヨリした空模様だ。

 相棒のカゴにバックを入れ、小さな門を出る。そしてサドルにまたがり、ペダルに乗せた足に力をこめた。



 つい昨日来た道なのに、天気が違うだけで全く違う道に感じられるのはなぜだろう。ヒカリはそんなことを考えながら、ペダルをこぎ続けている。相変わらず空には分厚い雲。世界中のものすべてが雲に閉じ込められてしまっているようだ。

 ようやく視線の先にあの雑木林が見えてきた時、ヒカリの鼻頭にポツリと何かが当たった。

「?」

 ヒカリは空を見上げた。灰色の雲り空から今度はおでこにポツリ。予報より早くに雨が降ってきてしまった。

「やばい!」

ヒカリはスピードを上げるが、雨足もそれに比例するかのように増し、みるみる道路が濡れていく。一度止まってレインコートを着るより、いち早くあの雑木林に入ったほうが良いだろうと判断したヒカリは、立ちこぎになってさらにスピードを上げた。

 幸い雑木林の中は枝葉が重なり合っていて、まだ弱い雨を防いでくれていた。しかしときどき大粒の雨水が首筋に落ち、そのたびに心臓が止まりそうになる。

目当ての洞窟への道は案外すぐに見つかった。注意してみれば、その細道は不自然な大きさなのだった。通り道としては細く、自然にできたとしてはなんだか人工的なものを感じる。そう見えるのは、ヒカリが選ばれた人間だからかもしれないが。

 その細道の近くの、できるだけ雨に濡れなさそうな所に相棒を置いて鍵をかけ、折りたたみ傘を開いてヒカリは細道へと入っていった。昨日みたいに穴へ滑り落ちないよう、足元に注意しながら。

 雨に濡れた土はしっとりと柔らかく、泥や落ち葉の破片が歩くたびスニーカーにこびりついてしまう。汚れてもいいような靴にすればよかったと、ヒカリは後悔した。  

ヒカリはようやく洞窟のある巨大な穴の縁までたどり着いた。ヒカリが見下ろすその先には洞窟が大きく口を開けていた。奥はやはり暗くて見えない。

 まず、転ばずに下りられそうな場所を探す。雨に濡れた地面の上を転がり落ちるわけにはいかない。何より、痛いし。

 すると、ヒカリのすぐ右に、階段とは言えないが岩が下に向かって一定間隔を開けて埋まっている場所があった。ヒカリは何回か滑りそうになりながらもその石段を降りて、巨大な穴の底へと降り立った。

 ヒカリはゆっくりと洞窟に向かって歩き出す。濡れた土は柔らかく、くっきりとヒカリの足跡を残している。

ヒカリは洞窟の前に立つと大きく深呼吸して、暗闇へと進んでいった。



やがて、洞窟の奥の光が溢れるドームにヒカリは到着した。ドームの中心にはやはりドラゴンが眠り、その近くで、仲介者と呼ばれる少女が佇んでいる。ドラゴンをじっと見つめている彼女の背中はどこか淋しげで、その身体は初めて会ったとき受けた印象よりずっと小さいように思えた。

ヒカリが一歩ドームの中に踏み入れると、彼女はゆっくりと振り向いた。

「・・・早かったわね」
作品名:Paff(仮) 作家名:わたなべ しんご