Blue (仮)
1.僕は。
目が覚めた時見慣れた天井ではなく、きれいな青色がそこにあった。キラキラと目の前が光っていてまるで空を飛んでいるようだった。
いや、僕は空を飛んでいたのだ。多分。
そう思った理由はよくわからない。ただ覚えているのは太陽がとても大きくて、とても身近に感じたからだ。そしてその太陽はどんどん僕に近づいている気さえした。
太陽の眩しさに僕の虹彩は仕事をしきれず、僕は目をグッと閉じた。その瞬間、瞼の奥から感じていた光が急に感じられなくなり暗闇が訪れた。
恐る恐る目を開き、ぼやけた視界で辺りを見渡せば見知らぬ部屋。ついでに見知らぬ人も。
「…君は?」
僕はなぜかやけに冷静だった。ぼやけた視界はだんだんはっきりとしてきて相手の特徴がつかめるまで回復した。
黒髪でパッチリとした目。どこか少年らしい雰囲気であるにもかかわらず黒いスーツに白い手袋といった似合わない格好をした男はにっこりとほほ笑んだ。
「俺は根間浩介。君の名前はなんだい?」
根間浩介とやらは左手で僕を指さし、首を傾げて問いかけた。
「僕は…。」
言葉が詰まった。自分の名前であるのに思い出せなかった。僕が黙って俯いていると彼はクスクスと笑った。
「自分の名前も忘れたのかい?君はルイス君だろう?」
自分の名前も?
改めてよく考えてみれば自分のことについて全くわからなかった。自分がどういう人で、どこで生まれたということですら。
彼はやれやれと呆れたように首をゆるゆると振ると一度溜息ついてから「君のために説明してあげるねぇ。」と言い、ペラペラと話し出した。
彼が言うには僕はフランス人と日本人のハーフで両親とも大富豪のお坊ちゃんである僕は高いスペックの遺伝子をもつ者と判断され、人類の発展の実験台として最新技術のある日本という国に連れられ、開発中であるバグという寄生虫を身体に埋め込まれた。そのバグを体内に飼っている人間は身体のどこかに印ができ、世間一般でいう超能力が使えるらしかった。そしてこのバグを体内に埋め込んでいる人間は世界で10人という少なさであるが、悪用すれば世界を滅ぼすこともできる力だと発覚したため、一刻も早く回収しなくてはならないということだった。
「その回収係がルイス君だよぉ。」
クルッと軽いステップを踏みながら話す彼を僕は落ち着きのない人だなと横目で見ながら思った。
「そしたら僕も回収される側だろう?」
眉間にしわを寄せる僕を見て彼はふっと笑うと
「そうなんだけどさぁ。君の力ってほかの寄生者に比べると超しょぼいしさぁ。世界を滅ぼすなんて到底無理な話なわけ。」
そのままステップを踏み続けながら僕を馬鹿にしたような目で彼は見た。
「それで、どうやってその10人を見つけて、どうやって回収すればいいんだ?」
僕は彼をぎろりと睨みながら言った。すると彼はぴたっと動きを止めると再びクスッと笑えば
「おっ、意外と乗り気だねぇ。そうだな…。見つける点に関しては問題ないと思うよ。なぜならバグを持っている実験体は東京23区内にいるし、身体のどこかに君のような印が出ているだろうからねぇ。」
彼は僕の左手を掴み僕の目の前まで持ち上げた。確かに僕の腕には蝶の形をした青いタトゥーのようなものがついていた。
「しかも邪魔なやつは早く潰したほうがいい。探さなくても近づいてくるだろうね。」
僕の手をぱっと放せば急に彼は真顔になり、声を低くして呟いた。
「どういう意味だ?」
僕が少々怯えた様子を見ると彼は、ほくそ笑んだ
「だってね、バグを取り出す方法は…」
彼は唇を僕の耳元まで近づけるとボソッと囁いた。その言葉を聞くと全身の毛が逆立ったのが自分でもわかった。
「そんなこと、僕にはできない。とは言わせないよ?」
彼はそう言うと僕の手を掴み身体を起き上がらせた。起き上がった僕の身体はずっしりと重力を感じ、それと同時に今が夜であるということと、さらに見やすくなった視界で辺りを再び見渡せば、僕たちがいる部屋が予想外に広いことがわかった。モダンスタイルを意識したインテリアでお洒落であるとともに生活感のある空間でいかにも大富豪のお坊ちゃんという雰囲気であった。そして今自分がベッドにいることも認識できた。
「その方法が嫌だから邪魔者である僕を消してしまおうというわけか。」
いまだぼんやりとする脳みそをできるだけ回転させ言うとなぜだか心がひどく傷んだ。
「でもね、君が回収する者だと寄生者達は知らないからみんなお互いを襲いあって共倒れしちゃうかもねぇ。」
ベッドの端に座った彼は足をぶんぶんと振りながらそう言うと「あ。」と声を漏らすと何かを思い出したような素振りを見せると僕を見てほほ笑んだ。
「君の能力の話をしていなかったねぇ。」
能力と言われ、忘れかけつつあった自分も寄生者であるということを思い出した。
「僕の…能力?」
そういえば寄生者には超能力が使えるようになると彼は言っていたが。と僕は先ほどまでの彼の説明を思い出していた。
「そう。君の能力はね…」
彼の言葉を飲み込むように僕は唾をゴクリと飲み込んだ。