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死人

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 薄い鉄板を踏む音だけが響いている。
 背後に、さっき写真で見た血まみれの姉が居るんじゃないか――
 そういう安っぽい想像が、今は効果バツグンだった。
 前後左右完全に無防備な時というのは、自分が弱い存在になる。そして相対的に「居るはずのないもの」がその存在感を増す。
 恐怖は否が応でも増大する。
 彼に付いてきてもらったら良かったかもな、と思って、自分で笑ってしまった。
 僕はやっぱり怖がりだった。
 薄っぺらな階段は案外すぐに終わって、砂の多い地面を踏んだ音がした。
 ちょっと余裕ができて、振り返ってみようかという気になった。念のために。
 どうしようかと一瞬考えて、結局振り返るのはやめた。どうせ暗いから何か居ても見えるわけがないよ無駄だよと、自分に言い聞かせた。
作品名:死人 作家名:咲会伶俐