死人
僕の中では、あの写真に映っているのは姉だということで決まりだったが、もしかすると違うかもしれないと、そう思うことにした。
つまり姉は生身の人間かも知れない、と。
「そろそろ帰るよ」
帰りたくなかったが、問題を先延ばしにするような態度は無意味だと思った。
「家まで付いて行ってやろうか」
一瞬そうしてもらおうかと思った。
だけど、夜中にトイレに行けない小学生みたいだと思ったので断った。
僕達はボロいアパートの玄関で別れを告げた。
ここへ来た時よりも、闇は深まったようだった。
向こうにコンビニエンスストアの灯りだけが見える。
鉄板で出来た貧弱な階段をゆっくり降りる。
街灯も少ないから、階段を踏み外さないようにすることさえ難しい。