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約束

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エピローグ



分娩室に元気な産声が響いた。
看護師や助産婦がてきぱきと動き、生まれたばかりの新生児は、直ちに羊水を除いたり、体を拭いたりといった処置が施される。
やがて、まだ分娩台の上で汗で濡れた髪を額にはりつかせた母親の元に、生まれたばかりの赤ん坊が運ばれて来た。助産婦が赤ん坊を母親の隣に寝かせる。
「元気な男の子ですよ。」
母親は、9年振りに自分が産んだ子供を見つめた。
まるで赤い猿のようだ。目を閉じたまま、もぞもぞと体を動かしている。
母親は、赤ん坊の右の頬に、鉛筆の先で突いたしみのような、小さなほくろがあるのに気が付いた。
母親は驚いたように、じっくりとそのほくろを見つめた。
やがて、母親は細かく震える左手の人差し指の先で、そのほくろを優しく突きながら、誰にも聞こえないくらい小さな声で呟いた。
「お帰りなさい。ちゃんと約束守ってくれたのね。」
その途端、赤ん坊がぱっちりと目を開いた。そして、母親の顔を見た赤ん坊の小さな口が横に広がり、両端がわずかに吊り上った。
母親は微笑みながら、もう一度、自分が産んだ二番目の子供の頬のほくろを、指先で優しく突いた。
赤ん坊が口を開き、声を出して笑った。
母親の目から涙が一滴こぼれ、顔の横を伝わって枕に落ちた。そして、すぐに枕の生地に吸い込まれて消えていった。



作品名:約束 作家名:sirius2014