非凡工房
ヒトリ
男は、ひとりになりたかった。
大都会で生まれ育ち、幼少期から様々な人間と関わってきた反動か。はたまた、人間関係の維持・構築に疲れてしまったのか。
誰もおらず、ひとりで生きていける場所を捜し歩いていた。
空へ届かんとするビル群。
落ち着きなく色を変える街頭ビジョン。どこか偉そうな老人のインタビューが映し出されている。
『わたしは、ついに完全な人工知能――そう、AIを完成させました。これにより、皆様の生活は格段に便利でかつ――』
映像に気を取られていると、他人とぶつかり男は転んでしまった。驚いて顔を向けたが、謝罪の言葉などは無く。その姿は人混みへと消えて行った。
騒がしい日常が走り続ける故郷に、男の安住の地はなかった。
故郷を抜け出し、男は辺ぴで小さな村へ辿り着いていた。住民は少なそうだ。ここならば静かに暮らせるかもしれない。
「見ない顔だね。どこから来たんだい?」
「兄ちゃん、これ食ってみな。村の名物なんだ。うまいぞ」
「都会育ちかい? いいなぁ、憧れるよ」
温かいはずの声掛けが、男には苦痛だった。
「放っておいてくれ。俺はひとりになりたいんだ」
逃げるように、男は村をあとにした。
人里を抜け、山を越え、海を渡り。ついに、男は誰もいない島を発見した。無人島だ。
「誰とも関わらなくていい。気を使わなくていい。最高だ。ここで自由に暮らそう」
それから五年、十年と男の無人島暮らしは続いた。
「久しぶりに、人と会うのもいいな」
ふとした気の迷いか、年を重ねたことによる寂しさか。男は人恋しさに襲われた。そうと決まれば舟を漕ぎ、人里へと向かった。
しかし、妙なのだ。以前訪れた村までやって来ても、誰とも出会わないのである。
「住民が減り過ぎて、廃村となったんだろうか」
会えないと、余計に会いたくなる。
今まで何をしていたのかと怒られるだろうが、実家へ顔を出そう。友達と近況を語り合うのも楽しいかもしれない。
はやる気持ちを抑えながら、男は故郷である大都会へと急いだ。あそこなら、大丈夫のはずだ。
静かだった。
街頭ビジョンは何も映さず、ビル群は音もなく佇んでいる。動くものといえば、無人の自動車が列をなし、所狭しと走っているくらいだ。
「なんで、誰もいないんだ。一体、どうなっているんだ」
男は座り込み、考えを整理できずにいた。
「珍しいデスネ。出歩く人間がいるナンテ」
機械的な声。振り向くと、丸く小さなロボットが男を見ていた。
「俺以外の人間は、どうしたんだ?」
「ご存知ないのですカ? 十年前、とある偉大な科学者がAIを開発しまシタ。ソレにより、人間は働く必要が無くナリ。ツイニハ個人空間から出ることも無くナリマシタ。皆、ヒトリの世界で人生ヲ満喫しているのデスヨ。サア、アナタモどうぞコチラヘ――」