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非凡工房

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眠気


「眠そうだね」
「疲れているのかい」
「目にクマが出来てるぞ」
「君、また遅刻かね」

 何度、同じ言葉を浴びせられたことだろう。
 私は強い眠気に悩まされている。
 この異常事態を自覚し始めたのは数ヶ月前。当初は溜まった疲れや、ストレスのせいだと決め付けていた。放って置けば自然に治るものだと思っていた。
 だが、一向に改善の気配が無く。また、医者に診てもらっても、薬を飲んでも効果が出ない。
 ついに私は一日の大半を、時には数日を、睡眠で削られることとなり。勤めていた会社も辞め、交際していた恋人とも別れてしまった。
 今こうしている間も眠気は容赦なく私を襲い、意識を奪っていく……。今度目が覚めたとき、時間はどれほど進んでいるのだろう。



「起きて下さい。そろそろ目覚めの時間だ」

 聞き慣れない声を皮切りに、私は目を開ける。そこは、何も無い世界だった。
 いや、何も無いと表現するのは不適切かもしれない。
 現代社会の建造物達が姿を失い、自然に溢れた世界だ。
 何より奇妙なのは、白い服を着た見知らぬ青年が、目の前にいることだ。
「君は誰だ」
「私は神です」
「何を言ってるのか、よくわからない。ここはどこだ」
「ここは地球です。ただ、一万年ほど時が経ち、氷河期が終わった頃ですが」
「氷河期だって。ますますわからない。私以外の人間はどうなったんだ」
「あなたが冬眠している間に、絶滅しました。どうも前回の人類は科学を重んじるあまり、自然を淘汰し、良くない方向へと進んでいたので。失敗だと思い、一度滅んでもらったのです」
 彼はそう言うと、呆気に取られている私をよそに、ゆっくりと左手を掲げて見せた。淡い光が生まれ、その中からこの世の物と思えぬほど美しい女性が現れる。
「さあ、新たな人類の歴史の始まりです。前回の反省を踏まえた、素晴らしい未来を期待します」
 そう言い残すと青年は消え去り、私の前には女性だけが残った。

 眠気に襲われていたのは、冬眠のためだったのか。青年は何者なのか。そして、人類は。

 女性は私に優しく微笑みかける。
 兎にも角にも、やることは決まっているようだ。


-The Creation And Adam And Eve-
作品名:非凡工房 作家名:氷室