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非凡工房

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ふくのかみ


 A氏とB氏は同じ職場に勤め、同じボロアパートに住んでおり、同じくらい貧しい。似た環境の二人だが、特別仲が良いというわけではない。
 ある日の帰り道、A氏は近所のゴミ捨て場で奇妙な人形を見つけた。
 それは丸々と肥えた中年男性の形をしていて、煌びやかな衣装を纏っており、人の良さそうな笑みを浮かべている。
 お腹には『福の神』と書かれていた。
「なんだい、それは」
 人形を手に取り眺めるA氏に、これまた仕事帰りのB氏が声をかける。
「福の神だとさ。ご利益がありそうだと思わないかい? 部屋に飾ってみるよ」
「ああ、やってみるといい。何か効果が出たら教えてくれよ」
 小馬鹿にした態度で、B氏はその場を後にした。

 部屋に戻ったA氏は早速人形を綺麗に拭きあげ、テーブルの上に飾った。すると、どうだろう。
「オ金ヲ、一円クダサイ」
 人形がしゃべったではないか。
 驚くA氏が一円を差し出すと、人形はこれを右手で受け取り、より一層笑みを浮かべた。
「アリガトウゴザイマス。ドウゾ」
 左手を差し出す人形。そこには、五円玉が乗っかっていた。
「少しだけ得をした。これがご利益なのかな」

 それから数日置きに、人形はお金を要求してきた。
 金額は十円、百円と少しずつ大きくなったが、それに伴い貰える金額も増えていった。
 数ヵ月後、A氏は見違えるほど豊かになり、綺麗なマンションへと引っ越していった。
 それはひどくB氏を苛立たせた。
「オレが一足先にあの人形を見つけていれば……。今頃、立場は逆だっただろうに」
 冷静さを失ったB氏はA氏の部屋を訪れた。
 そして、用意していた睡眠薬でA氏を眠らせ、人形を奪ってしまった。

「よし、これでオレも大金持ちだ。ほら、早くしゃべるんだ」
 部屋に戻り人形を前にし、興奮するB氏。
 人形は以前見たときと同じく、笑みを浮かべている。
「オ金ヲ、一億円クダサイ」
「……なんだと?」
 あまりにも巨大な金額に、B氏は愕然とした。もちろん、払えるわけが無い。
「オ金ヲ、一億円クダサイ」
「ふざけるな、こいつ」
 B氏は人形を蹴飛ばし、不貞腐れて寝転がる。
 人形が、泣きそうな表情に変わっていた。
「オ金ヲ、一億円クダサイ」
「うるさいぞ、これで黙れ」
 B氏は百円玉を人形へ投げつけた。
 人形が右手で掴む。

 しばしの沈黙が訪れた。
 人形の顔が見る見るうちに、怒りの表情へと変わっていく。
「ゼンゼン、タリネエヨ……」
 突如、B氏の腹部に激痛が走った。
 あまりの痛みに転げながらも人形を見ると、右手には赤く染まったソラマメの様な物を持っている。

「ジンゾウ一個、三千万円ナ」
作品名:非凡工房 作家名:氷室