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非凡工房

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非凡工房


 才能溢れる子を授かることは、親の夢であろう。
 とある研究所に勤務するF氏は、そんな願いを叶える画期的な新薬を完成させた。
「ついに完成だ。この薬を妊婦に投与すれば、この国は才能豊かな人間で溢れ、より早く素晴らしく発展していくことだろう」
 F氏の言葉を聞いた周りの助手達から、歓声があがる。
 新聞、テレビなどの情報機関もF氏の発明を大きく取り上げ、研究所に取材や問い合わせが殺到した。
 いつしか研究所は才能を作る場所、非凡工房と呼ばれ始めた。
「低コストで安全に、様々な才能を持つ素晴らしい人間を生み出しましょう。私の発明が近い将来、この国を支える大きな礎となることを切に願います」
 こうして希望する夫婦に薬の投与が開始され、様々な才能を持つ子供達が次々と誕生した。
「あなたはサッカーの才能があるのよ」
「お前は数学の才能があるんだ」
「うちの子は将来、パティシエになるの」
 国中が、こういった声で溢れた。
 親の期待を背負った子供達は成長し、そして十年、二十年と時は過ぎていった。

 発明のおかげで大富豪となったF氏が自宅で読書をしていたある日、呼び鈴が鳴った。
「はい、どなたでしょうか」
「警察です。少しお話が」
 F氏は不思議に思った。生ける偉人とも言える自分に、警察が何の用だろうか。薬による死亡事故でも起きたのだろうか。はたまた副作用でも。
 多少の不安を覚えながらも、F氏はドアを開けた。そこには警官と思われるスーツ姿の男が数人立っており、一番前に立つ男が胸ポケットから書類を取り出し言った。
「あなたに国家転覆罪で礼状が出ております。ご同行を願います」
「私に礼状だと? なにかの間違いじゃないのかね」
「二十年前から使用されている、才能を与える薬を作ったのはあなたではないのですか」
「確かにそうだ。あれは歴史に残る発明だ。なぜ国家転覆罪になるのだ。納得のいく説明がほしい」
 慌ててまくし立てるF氏に、警官は冷静に話し始めた。
「あなたが作った薬により、今我が国の若者達の無気力化が進行しているのです。幼少より才能があるということに気づいたことで、多くの子供達が自分は特別だと思ったのです。周りには自分と同じような才能を持つ子供がいるにも関わらず、自己に溺れ、努力することを忘れた人間が将来どうなるか。想像に難くないでしょう」
「馬鹿な。そんな話、聞いたことがないぞ」
「大衆が気づいてからでは遅いのです。最新の調査によるとすでに兆候は出始めている。あなたは才能という餌を与えることで、逆に多くの若者の将来を奪ったのだ。このような人間が増え続ければ、国は崩壊してしまう」
 呆然とするF氏は手錠をかけられ、パトカーに乗せられた。
「そうだ。努力する才能を与える薬を作ればいいんだ。これで解決じゃないか、そう思わないかね!?」
 F氏の言葉を聞いた周りの警官達から、ため息が漏れた。

 天才とは一%の才能と九十九%の努力であるとは、よくいったものだ。
作品名:非凡工房 作家名:氷室