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非凡工房

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パーツ


「ああ・・・・・・なんと美しいのだろう」
 F氏は誰に言うでもなく、呟いた。
 眼前には鏡に映し出された自分の裸体。
「完璧だ、私は完璧なのだ」

 F氏の暮らす国では美容整形が大流行していた。
 それも生半可なものではない。
 体のパーツを取り替えるといった方式の、全く新しい美容整形なのだ。
 筋肉質な腕になりたければ、取り替えればいい。金さえあれば自分の外見は思うがまま。筋力トレーニングなんて面倒なことは必要なし。言ってしまえば、体の着せ替えである。
 現に大金持ちのF氏はボクサーの腕、サッカー選手の脚、プロ野球選手の胴、端麗な顔といったように体のパーツを取り替えている。
 そんなF氏だが、ひとつだけ悩みがあった。
 女性にモテないのである。
 完璧な外見を持つはずの自分に、なぜ女性が関心を示さないのか。F氏は常々考えていた。

 ある日、F氏の家をひとりの男が訪れた。スーツを着た、セールスマンである。
「なんだね君は。見ての通りうちは裕福だ。大抵の物は揃っている。押し売りならよそでやってくれ」
「ええ、確かにあなたは裕福でいらっしゃる。見たところ、美容整形もなされているようだ。しかし、悩みのひとつくらいはあるでしょう。私はそれらを解決する商品を取り扱っております」
 どうやらこの男は自分についていくらか調べているらしい、とF氏は思った。
「ふむ、例えば・・・・・・」
「奥様がいらっしゃらないところを見ると、女性におモテにならないのでは」
 ずばっと自分の悩みを言い当てられ、F氏はいくらか立腹した。
「つまり女性に関心を抱かせるような物の類か。それなら無駄だよ。今までも何度か試したが、効果が出たことが無い」
会話を切り上げてドアを閉めようとしたF氏に、なおも男は食い下がる。
「内面を改善する最も効果的な方法。それは脳を取り替えることです」
「なに、脳を取り替えるだって」
「そうです。完璧な外見を持つあなたがなぜ世の女性から見放されているのか。答えは簡単です。外見と内面のバランスが取れていないのです。私の会社はそのバランスに悩む方々をお客様としております。お名前を出させていただければ・・・・・・」
 男の口からはF氏も知る著名人が続々と出てきた。驚いた、こんなにも多くの人々が脳の取り替えをやっていたとは。
「しかし、脳ともなると値が張るんじゃないかね」
「とんでもございません。ご納得いただけるまで、何度でもお取り替えいただけます。大体の費用はこのくらいでして」
 男の提示額は大きかったが、F氏からすれば払える金額だった。
「そこまで言うなら試してやろうじゃないか」
「ありがとうございます。ではこちらにサインを」


 取替えを終えて数日後、男は再びF氏の家を訪れた。
「調子はいかがでしょうか」
 男が尋ねる。
「なんとも清々しい気分だ、生まれ変わったようだよ。女性には苦労しないし、仕事も上手く行っている。君にはなんとお礼を言ったらいいか・・・・・・」
「とんでもございません。私はあなたのような優れた資質をお持ちの方に、相応の立場を用意したにすぎませんよ」
「しかしこの容姿でさらに裕福だったというのに、女性からモテないなんて。前の持ち主はよほどひどい性格だったんだろうね」
「ええ、それはもう自己顕示欲の塊のような人間でした。脳を保管しても使い道が無さそうなので、ゴミとして処理しちゃいましたよ」
作品名:非凡工房 作家名:氷室